[本]里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く

最近読んだ本を紹介します。藻谷浩介(+NHK広島取材班)さんの「里山資本主義 日本経済は「安心」で動く」です。藻谷浩介さんといえば、ベストセラー「デフレの正体 経済は「人口の波」で動く」の著者。前作も特異な視点で面白かったので、今回も期待できると思っていましたら、案の定面白く、しかも中身が濃いんです。

一言で言えば、お金を中心として回る「マネー資本主義」に対して、お金に依存せずに回るシステム「里山資本主義」を紹介、啓蒙する本です。マネー資本主義を否定するわけではなく、サブシステムとしての里山資本主義について語っている点が骨子と言えましょう。

でも里山資本主義って、いったい何なのでしょうか?

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私は里山好きなので、このキーワードだけで興味を持ってしまったのですが、ところがどっこい、そんな興味などを遙かに超える内容が詰まっているのです。

ポイントは、先の東日本大震災でもわかるように、お金を中心としたシステムは大災害によってあっけなく無効化されてしまうこと、人が生きるために必要な水、食物、燃料はお金があるだけでは手に入らないこともある、そこなんです。

お金を中心としたシステム(マネー資本主義)から抜けるのは容易ではないし、現実的ではありません。しかしふだんの生活はほとんどそのままでも、ほんの一部分だけそこから抜け出すことで、お金に依存した生活によるリスクを軽減できる、そんな魅力を持っているのが里山資本主義です。

私がもっとも好きなエピソードは、広島県庄原市の取り組み。過疎の産物であった空き家をデイサービスのための施設として利用。さらに、地元の方が育てては食べる人がいずに腐らせていた野菜を、そのデイサービス施設で利用することを発想。さらにさらに、野菜の買い取りは地域通貨で、その地域通貨でデイサービスなどを利用できるようにするなどの循環。

この動きは中央を潤したりGDPを底上げするといった効果はまったくありませんが、地元は活性化し、人々の幸福度もアップする。他には、捨てるだけだった木くずを燃料として利用して地元の電気を賄ったり、衰退していた果樹農業を救ったジャムやさんの話とか。森林先進国オーストリアの事例も取り上げられています。

見慣れていれば気付かないような宝の山が、どこにでも溢れていると気付かせてくれます。

NHK広島のスタッフが取材しているので、話が中国地方や四国地方に偏ってしまっていますが、日本全国で取り組める話でしょう。まずはできることから。地元のものを購入する、地元の店を利用する、個人に近いものを消費する、それだけで地域が活性化するでしょう。

読んでいて、非常に真面目で難しい話なのですけどワクワクする、そんな本でした。今の社会のあり方に漠然とした疑問や不安を持っている人には、ぜひ読んで欲しい一冊です。

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