日経ビジネス2005/5/9号に掲載されていたWall Street Journalの翻訳記事から。携帯電話が、デジタル音楽市場で一人勝ちしているiPodを打ち負かすかという記事だが、なかなか興味深い。今や誰もが携帯電話を持ち、iPodを持ち歩く人も多く見かける。かくいう私もその一人なのだが、果たしてiPodの替わりに携帯電話で音楽を聴くときが来るのだろうか?
この話をするときのポイントは2つある。ひとつは、ハードウェアとして携帯電話がiPodの市場を奪い去るかという話。もうひとつは、デジタル音楽の配信手段としての携帯電話とiPodすなわちiTunes Music Storeの関係である。どちらか一方だけを見てどうなるかとは言えず、両者が絡み合った展開を起こすと見るのが自然だ。さて、どうなるか。
iPodが携帯電話、いや既存の携帯型デジタル音楽プレーヤーに比べて優れていることは、たくさんある。デザイン、容量、操作性もさることながら、パソコンにストックされた音源との同期が非常に簡単だと言うことが言えるだろう。ほかのプレーヤー、たとえばSONYのネットワークウォークマンなどを使ったこともあるが、付属のアプリケーションSonicStageの使い勝手にどうもなじめない。CDから録音する際にアルバム名やタイトル名を検索するにも、ブラウザのようなものが介入するなど、どうもスムーズでない。
このへん、iTunesは単独のプレーヤーとしてもiPodのためのツールとしても優れている。私はマカーではないが、パソコンで音楽を聴くならiTunesと決めている。WMPやWinAMPなども使ってきたが、iPodを使い始めたこともあるがここに落ち着いている。ほかに移行する理由も特にない。
携帯電話も、最近はデザイン重視になってきていて持ち歩いて格好のよいものが多数出てきた。これに大容量のバッテリー、大容量のディスクが内蔵されれば、少なくともスペック的にはiPodに近いものができるだろう。SUMSUNGの携帯電話にはHDDが内蔵されたものがすでに存在するし、バッテリーの大容量化と本体の省電力化は合わせて進んでいる。だから、決め手はアプリケーションなのではないかと思うのだ。
実際、AppleはMotorolaと組んでiTunes携帯の開発を進めているらしい。すると、近い将来には携帯電話とiPodを同時に持ち歩く必要がなくなる時代が来るということか。だが、それはiPodが携帯電話の中に入ってしまっただけで、相も変わらずiPodは使い続けられるわけだから、必ずしもiPodが携帯電話に負けたことにはならないのだろう。
こういう意見もある。いくら携帯電話のカメラ機能が高度化しても、デジタルカメラのさらなる高画質が必要とされるシチュエーションは変わらず存在するから、両者は棲み分ける。携帯電話がデジタル音楽プレーヤーの機能を備えても、専用プレーヤがその存在意義を失うということはないだろう。だが、両者とも程度問題で、いくばしかのシェア変化はあって当然だろう。パソコンにワードプロセッサ専用機が駆逐されたときのようにはならないだろう。駆逐されるとすれば、専用機より複合機、あるいは汎用機の性能がはるかに高いというときがきたらだ。ワープロでは、それが実際に起こった。
音楽配信についてみれば、Appleは順調にダウンロードを伸ばしているらしく、これからはネットを通じての音楽配信が無視できないものとなるに違いない。この点は、携帯電話が有利である。何しろ、通信機能を持っているのだから、ダウンロード、そく再生も可能だ。上で書いた、パソコンとの連動も必要ない。難点は、パソコンで使われるADSLなどのメガビット回線に匹敵するサービスが、携帯電話にはいまだに存在しないということだ。
音楽配信ビジネスの収益構造を見ると、まず購入者が支払った金額の何割かは配信サイトの運営者に落ちる。たとえば、iTunes Music Storeだ。残りは、版権を所有する法人・個人に落ちる。基本的には、こういう構造だ。重要なのは、サイトの運営者という部分で、ここをどう握るか、どう食い込むかでデジタル音楽ビジネスの収益が大きく変わる。
上記のiTunes携帯では、察しのとおりiTunes Music Storeを使うことが想定されるので、携帯電話事業者(キャリア)のメリットがほとんど出てこない。通信費が増えるだろうくらいのものだろうが、それならばわざわざ音楽配信にこだわる必要はない。
個人的には、MotorolaのiTunes携帯は面白そうな気がする。日本にいると、このメーカーの携帯を使う機会はあまりないだろうが、どういうように評価されて市場が動くか興味がある。Motorolaがハードを売っただけであとは音楽配信に関われないということは考えられないから、ダウンロードした端末によって収益配分が変わるようなシステムなど、考えているのではないだろうか?
しかし携帯電話ビジネスの収益構造自体が複雑で、これにiTunesといった技術や音楽配信ビジネスが絡むとさらに複雑になるのだろうなぁ。音源を持った特定のメーカー(たとえばSONY)によるクローズなサービスというのはイヤだから、オープンに、好きな端末で好きなサイトから好きな曲だけダウンロードできる、といった感じになって欲しいものだ。無理かな?