諸星大二郎の代表作、稗田礼二郎こと妖怪ハンターシリーズ、地の巻である。
このシリーズには、天、地、水とあるらしいが、今回は「地」である。
「天」、「地」という順番になりそうなものだが、「地」が先に来るようだ。
そもそも「人」というのはないのだし、どうでもいい話かも。
「地」は、「天」と同時に、偶然にも書店で入手した。
妖怪ハンターシリーズの作品では、以前に紹介した自選シリーズにも収録があるが、今回は妖怪ハンターシリーズの作品のみなのである。
こんなにあったのか!と改めて驚くのだが、これは堪能せずにはいられないのである。
「地の巻」には、70年代から90年代という、広範囲にわたる期間の作品が収められている。
どちらかというと短編中心で、一種猟奇的とも言える作品が中心のようだ。
「黒い探究者」は、稗田礼二郎のデビューとも言える作品である。某所の古墳に関わる謎の究明とともに、比流子という存在の解釈を試みている。このエピソードは、「暗黒神話」の中にも登場する。
「赤い唇」は、一種の学園ミステリーとも言えるものだ。いわく妖女の類が唇という変化のなせる技というのは、新鮮な感じだ。
「生命の木」は、すでに自選集にも収録され、映画化もされているので、書く必要もあるまい。
「海竜祭の夜」「闇の客人」も、自選集にも収録されている。
「ヒトニグサ」、これを最初に読んだときは学生だったが、かなりのショックを受けた作品だった記憶がある。果たしてどのようなショックを受けたのかは今となってはわからない。まさかふだん食べているヤマイモのせいでもであるまいが。
「蟻地獄」、これのオチは、失われたはずの恋人が帰ってくることにあるのだろうが、果たして望むものが本当に手に入ってしまうということの是非は、本人にしかわからないと言うことなのだろうか?
「闇の中の仮面の顔」、比較的シンプルでわかりやすい話だ。山中で迷ううちにタイムスリップした男が古代の人間を殺してしまい、その報復を時間を超えて受けるという話だ。怪しげな夢を見たときには、それが現世のものであるとは限らないと言うことなのだろうか。
「死人帰り」、これはいわゆる死者を蘇らせる鬼功法の話としてもあるが、蘇ったはずの死人にとりつき主権脱却を目論む魔物ども、もっと先まで言ってしまえば地の底や改訂にいるといわれているクトールー神話の要素も取り入れている作品だ。初期の作品で、少年ジャンプあたりに掲載されていたのは記憶している。
思うのは、少し前の日本は、これらの作品に出てくるように、暗く、謎めき、静かな土地だったということだ。
私は非文明論者ではないが、暗い部分、湿った部分、そういうマイナスな感情を人に与えるものをただ隠し、塗りつぶしているというのは、果たして日本人の原感情に合っているのかと思うことはある。
もともと相容れないものとの軋轢が一種の歪みを呼んでいるのでないかと思うのだが…。