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彼方より―諸星大二郎

「彼方より」は、すでに紹介した諸星大二郎の自選短編集「汝、神になれ鬼になれ」と同時に発刊された、同じく自選短編集である。こちらは、タイトルが示すように「彼方」(=「異界」)がテーマになっているらしい。

この短編集は、大きく三つのパートに分かれている。ひとつは、書名と同じ「彼方より」。もうひとつは、反対の方向である「彼方から」。最後は、どこか遠くにある別の世界のことを書いた、文字通りの「遠い世界」である。

「彼方より」には、「生物都市」「海の中」「天神さま」の三つの作品が収録されている。このうち「生物都市」は、諸星ファンでなくとも覚えているというおじさんが多いのではないだろうか?当時少年ジャンプにて手塚賞として発表されたこの作品は、画期的であった。宇宙もののSFという定番臭を漂わせながら、機械と生物の融合という新しい世界観を産みだした。どこか文明へのアンチテーゼさえ感じさせるこの作品は、当時小学生であった私にショックを与えたのであった。「海の中」は、遠く離れた二つの土地で死を遂げた二人の男女が海中で邂逅し、一緒に浜に打ち上げられるという少々ファンタジーめいた物語である。「天神さま」は、ほかの作品集にも収録されているので、そこで書いてみたい。

「彼方から」には、「ぼくとフリオと校庭で」「ど次元世界物語」「ヨシコちゃんと首たち」「桃源記」の四つの作品が収録されている。実はこのパートが、もっとも難解とも言えるのである。まったく異なったテイストを持った作品だが、これにて作者の幅の広さを感じさせると思ったら言い過ぎか。「ぼくとフリオと校庭で」は、珍しいと言えば珍しい現代の日常が舞台のような作品だが、UFOものでもある。「ど次元世界物語」は、実は読んでいない。なんだかサザエさんのようなその画風は、しばらく間をおかないと読めそうにない。「ヨシコちゃんと首たち」は、お話しである。絵本といってもいいか。挿絵付きの変なお話しだと思えばいい。ヨシコちゃんと呼ばれるには不似合いな目鼻立ちの整った女の子が、異界で繰り広げるナンセンス、と言う感じだ。実は、この作品も読んでいないのである。どこかのレビューで、諸星氏には漫画だけ書いていてもらいたいという書き込みを見て、何となく敬遠しているだけなのだが。「桃源記」は、氏の得意な中国を舞台にした伝奇である。

「遠い世界」には、「男たちの風景」「カオカオ様が通る」「砂の巨人」の三つの作品が収録されている。文字どおり遠方?の世界を舞台にしたお話しだが、「男たちの風景」のオチは書くわけにはいくまい。オチが最初にわかっていたら、面白くも何ともないお話しだ。だが、日常の役割をあえて反転させてみてわかること、という寓話めいた要素も持っている。「カオカオ様が通る」は宇宙SFだが、カオカオ様なる巨人の歩くさまざまな街を見て、それぞれの反応を見て驚く。当たり前になってしまった巨人の存在が何も感じさせなくなったとしたら、それは現代にも何か映しているものがあるかも知れない。最後の「砂の巨人」は、またもや氏の得意分野である「原住民」ものである。だが、この短編集の性格上、やはり宇宙とつながっている?と思わせるお話しだ。

ぜひ、「巨人」シリーズをつくって下さい。

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