聞けば、日本を代表するコンパクトスポーツカーであるセリカ(トヨタ)とインテグラ(ホンダ)が生産中止になるそうですね。これで、コンパクトスポーツ(排気量2,000cc以下のスポーツタイプのクルマ)は一部を除き姿を消すことになるそうですが、かつてのコンパクトスポーツ全盛の時代を知っていると、こんなにも様変わりするものかな、と思います。
私がクルマに乗り始めたのは免許取り立ての20年ほど前ですが、その頃はまさにコンパクトスポーツ全盛の時代。トヨタのセリカ・MR-2・トレノ・レビン・カローラFX・スターレット、日産のシルビア・パルサー、ホンダのプレリュード・インテグラ・シビック・CR-X、など。デートカーとして、走り屋カーとして、若い奴らが車を買うと言えば、コンパクトスポーツを買うもの、と相場が決まってましたし、カッコイイ車を買えば皆がうらやましがったもの。今は、コンパクトスポーツというよりはワゴン車、2人で乗るより仲間大勢で乗る、そんな感じなんでしょうか。家庭があればそんなふうになるのは当然でしょうが、昔なら迷わずコンパクトスポーツを買っていたような世代も、最初からワゴン車を買ってしまうような時代なんですね。どこかで書いてあったのは、若者の意識変化というものがありましたが、それだけじゃないでしょうね。
思うには、セダンタイプのクルマのワゴンバージョンが増えてきて、それなりに格好いいということがあるでしょうか。かつてのワゴンバージョンは、いかにも商用車で、はっきり言って格好悪い代物でしたからね。メーカーも、そういう前提で売っていたような感じもありますし、たとえばコロナのワゴン車は明らかに4ナンバーの商用車で、荷物スペースが異様に広い、そんなものでした。今は、レガシー、アコード、ステージアなど、見た目も格好良く、しかもスポーティなワゴン車がたくさんありますから、普通のセダンはイヤ、でも実用性は欲しい、という層が買っているのでしょう。
それに、ワンボックスも格好良く、性能がいいものが増えてきたと言うことです。また、ミニバンと呼ばれるセダンとワンボックスの中間のようなクルマも増えてきて、みなそれなりに格好良いし、しかも運動性能のよいものが多いですね。かくいう私もミニバンのユーザですが、一昔前のセダンなど足元にも及ばない運動性能を持っています。しかも、ミニバンなので社内は広いし、荷物もたくさん詰めます。それにこれも重要なのですが、燃費がいいのです。エンジンの性能が上がって、高出力なのに燃費がいいというエンジンが増えてきました。また、ミッションの性能も上がって、省燃費に貢献しています。
ですが、ワゴン車とかその他のクルマの見た目や性能がよくなってきたからというのは、あくまでも後押し要因にしか過ぎないでしょうね。コンパクトスポーツに乗りたい、しかもそれらは格好良くて高性能なら、別にワゴン車やミニバンに流れる必要もないのですから。そう考えると、若者の意識変化、というのもあながち頷けます。ではどういう風に?と考えるにあたって、何で私は若い頃コンパクトスポーツに乗っていたのかしら?と思ったのでした。
調査によれば、クルマを単なる移動手段としか考えていない層が44パーセントで、デートカーとしての需要は1パーセントだとか。いいですか、たったの1パーセントです。これは少子化、晩婚化と無関係ではありませんよ。私の若い頃は、休日や金曜の晩は、彼女を乗せてコンパクトスポーツで高速をクルージングし、ワインディングをドライブしたものです。最初に乗ったのはEP71スターレットSi、かっとびスターレットです。軽量ボディにパワーのあるエンジンで、その乗り味はまさに「かっとび」。そのあとはスターレットTurboS。強烈な加速で虜になりました。派手なエアロが標準で、ボンネットのエアインテークといいちょっと子供じみていたので、すぐに手放してしまいましたが。
次は、AE92トレノです。「頭文字D」で有名な名車AE86の後継で、それまでのFRからFFに転じた最初のクルマでしたが、その後の凋落はこのFF化が災いしていると思っています。今でもFRであれば、走り指向のドライバーに指示を受ける素地は立派に保っていると思います。AE92も、FFながらレスポンスのよいエンジンとしっかりした足回りで十分走りの楽しさは堪能できました。このAE92は、当時流行りであったスペシャリティカーとしての要素も十分満たしており、私の乗っていたGT-APEXというグレードは、TEMSという電子制御サスペンション、デジタルメーター、集中ドアロック、電動ミラー、オートエアコンなど、快適装備が盛りだくさんという仕様でした。今に思えば、この頃から少しずつユーザの指向が変わってきているのかも知れません。
その次は、結婚して子供もできたこともあってファミリーカーのコロナに乗り換えました。ですが、走りへの願望が押さえられない私は、コロナでもSF-GTという2000ccの160psというツインカムエンジンを搭載したハッチバックモデルにしたのでした。しかも、ファミリーセダンなのに5速マニュアルという、家族には大迷惑な仕様です。これにTEMSという電子制御サスペンション、4輪ABSを装備した仕様です。サスがふにゃふにゃで、とてもAE92ほどの走りはできませんでしたが、豪快なエンジン音といい、それなりに楽しめたクルマでした。
その後は、無難な4ドアセダン、そして今のミニバンに至っています。この2車は、トヨタからホンダに転向したのでした。トヨタ車ではこれ以上の車種では走りは追求できない、と思ったからでした。
今でも基本線は、走って楽しくないクルマには乗りたくない、ということです。だから今のミニバンを選ぶにも、走りの性能が満たされているか、ということを重要視しました。これは未来も変わらないでしょう。私の同僚と話していて思うのは、車を買うときにはエンジンの排気量とかサスの形式とか、そんなものを気にしている人は少数派ということでした。普通は、そんなものなのでしょう、なによりも座席数や価格が最重要ということでした。クルマに求めるものは、確かに変わってしまったのを実感しました。
私は今でも欲しいです、コンパクトスポーツ。もしそれが適うなら、いい歳なので、それなりのスポーツクーペにするのでしょうね。日産フェアレディZ、ホンダS2000、マツダロードスターあたりがねらい目ですが、外国車ならプジョー407クーペ、アウディTTクーペあたりがいいと思っているのですが。残念ながら、トヨタ車にはこういうときに出番はもはやなくなりました。クルマを選ぶとき、それに乗ってどこかに行く自分のイメージとダイレクトに結びつきますね。楽しくツーリング、というときにはミニバンではなくスポーツタイプのクーペにしたいと思うのです。ボディに見合った最低限の乗客を乗せて、軽快に格好良く移動する、それはやっぱりいいですよ!
実は、最初に乗った車はスポーツクーペではないのです。当時、FF化が進んでいましたが、それまでFRとキャブレターの組み合わせだったクルマが、FFでEFI(電子制御燃料噴射)の組み合わせに変わったのを機に、その車を買いました。当時、「かっとび」のコピーで登場した、スターレットSi(EP71)ですね。軽い車体に強いエンジンで、文字どおり「かっとんだ」クルマでした。当時、同じトヨタなら、有名なAE86トレノ、レビンといったスポーツクーペがあったのですが、なぜスターレットにしたかというと、「ちょっと恥ずかしい」というのがあったのですね。地味な青年にとっては、スポーツクーペというのに乗るには、ちょっと気恥ずかしい、という感情もあったのでしょう。普通の2ボックスにして、少しでもスポーティに、というあたりでスターレットSiに落ち着いたのでしょう。