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紅葉の下で叫ぶ

天気のよい午後、時間も午後3時を過ぎれば、日も傾き光の色が柔らかくなる。ちょうど、東京ミッドタウンのイロハモミジの色づき具合がよいこの頃、遅い昼食のあとに軽い散策を楽しむ。

見た目のよいところで写真でも撮ろうか、と歩いていたそのとき…。

公園に近づくと、大きな話し声がする。誰かがベンチに腰掛けて、会話を楽しんでいるのだろうと思ったが、話の主はひとり(若い女性)のようだ。どうやら携帯電話で話しているらしいのだが、その声が大きいので、話している内容が聞こえてしまう。

こんなところで、そんな大声で電話しなくたっていいじゃないか、と思いつつ耳を欹てると(おれがいけない)、もしかして男女の痴話喧嘩?のような話に聞こえる。イヤ、聞きたくなくても、あまりに声が大きすぎて、聞こえてしまうのだ。

「どうしてよ、何で話をはぐらかすのよ。」

これは、相手が逃げようとしているのを、責める常套句だ。いかん、いかん、こんなことではますます逃げてしまうぞ、と心の中で思っていたが、話が変わってきた。

「あんたのせいで10万損したのよ、どうしてくれるのよ。」

どうやら、競馬ですったか、投資話に乗って焦げ付いたか、というところのようだ。やれやれ、世知辛いねぇ、と思いつつその場を離れ始めたのだが、エスカレートした彼女の声はどんどん大きくなる。

「返してよ!返して!」

いや、そんなに大きな声で叫ばなくてもと思いつつ、すれ違った老夫婦の顔を見たら彼らも気付いているようで、声の方角をじっと凝視しているのであった。私は、いたたまれなくなって、早くその場を離れたく、どんどん歩くが、声はどんどん大きくなる。

「あなたのせいよ!」
「あなたのせいよ!」
「あなたのせいよ!」

そんなに繰り返さなくてもいいじゃないかと、こっちが情けなくなる…。自分が責められているようにも感じるのはふだん責められているからか?かれこれ、100mほど離れただろうか。じっと耳を澄ますと、いや澄まさずとも、まだ聞こえる。

「あ・な・た・の・せ・い・!」

一音、一音、きちんと聞こえるように区切って叫ぶ彼女の声は、公園中にこだまするのであった。周りを見渡せば、色づいたモミジに南天の木の実、黄色い花のツワブキ、声がなければ、穏やかな晩秋の風景である。

「あ・な・た・の・せ・い・!」

叫ぶ声が聞こえなくなったのは、さらに100mm歩いてからだった…。

でも写真はしっかり撮った(上)。

疲れた…。

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