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金色の魔術師―横溝正史

江戸川乱歩の「少年探偵」シリーズの文庫版を読んだことで、同様に幼少の頃に読んだ横溝正史のジュニア向け探偵小説を思い出してしまった。「風呂桶の中で人が溶ける!」といった衝撃的なシーンばかりが印象に残っていて、肝心の作品名がわからなかったのだが、ふとしたことで思い出した。それは、「金色の魔術師」である。名探偵金田一耕助のシリーズだが、新しい版が出ていると聞いて、さっそく買い求めて読んでみた。

ポプラポケット文庫 名探偵金田一耕助シリーズ(3) 金色の魔術師

新しい版は、「ポプラポケット文庫」として2006年に発刊されている。オリジナルは1952年と古いのだが、角川書店から1979年に文庫として発刊されているが、こちらは新刊では入手する術もない。中古品が出回っているが、この入手はあとでもいいだろう。まずは、「ポプラポケット文庫」版を読んでみることにした。

まず表紙がモダンである。イラストレーションはD.K氏というイラストレーターによるものらしいが、近年の本らしい明るい色遣いと今風の格好良いタッチである。なお、同様のイラストは本文中にも挿絵として登場しており、そこに出てくる少年たちのかわいらしさといったらないのだ。おめめぱっちりのかわいく明るく勇敢な少年たちがメインで活躍するのだ。

金田一耕助探偵も格好良い。映像でいえば、古谷一行バージョンだろうか?それとも石坂浩二バージョンか?個人的には、原作に沿った和装の金田一耕助が当たり前だと思っていたが、当初はスーツ姿やジーンズ姿などの金田一耕助も登場したそうだ。ジーンズ姿の中尾彬、スーツ姿の高倉健など、見てみたいものだ。

「金色の魔術師」は、ポプラポケット文庫 名探偵金田一耕助シリーズの3作目である。たまたま印象の強かったこの作品を選んで読んでみたわけだが、ポプラ社のサイトはこんな感じであり、中年男が訪れるにはかなり気恥ずかしい雰囲気だ。ポプラ社のサイトによると、このシリーズは(1)仮面城、(2)大迷宮、とある。いずれは読んでみてもいいかな、だ(と言いながら江戸川乱歩のシリーズは2作読んで終わってしまったわけだが)。

お話の方は、金色の魔術師と名乗る怪老人が次々と子供をさらい、生け贄を捧げると称して奇っ怪な手段で子供を消し去るのだが、それを名探偵金田一耕助と滋少年が解決するというものだ。お話を詳しく書くことはしないが、江戸川乱歩の少年探偵シリーズともども、何と少年たちの勇敢であることか。恐れながらもひるむことなく、謎に取り組んでいく姿勢は時代さながらであろう。

少年探偵シリーズもそうだが、このお話は、当時の時代背景をある程度イメージしながら読まないとつらいと感じる。だからこそ当時の少年少女が飛びついて読んでいるのかも知れないが、今の子供たちが読んだらどんな印象を受けるのだろうか?当時の町並み、交通機関はどうだったか?昔は、今みたいに明るくないし、道路も舗装されているとは限らない。人家も今みたいに密集していないし、田畑や雑木林の方が多かった。車は少なく、タクシー・バスは今みたいに走ってないし、何しろ通信手段がごく限られた拠点の電話のみと言ってよい状況だ。余りに便利な現代からは、想像できないだけに少年たちの行動が滑稽にも見えるかも知れない。

お話は、やはりジュニア向けなのでそれなりの深さだが、少年探偵シリーズよりは深いだろうか?ひとつ惜しいのは、この物語では地形が重要なポイントになるのだが、それを示す図解がなく(挿絵はあった)、今ひとつ臨場感に欠けたことだ。この図解があれば、謎解きは俄然、面白くなる。これは、オリジナルか、角川文庫版には存在するようだ。できればそのうち、古本屋などをあさってみたい気がする(できるかな?)。

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