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新・巨人の星―梶原一騎・川崎のぼる

なにやら唐突だが、コミック作品「新・巨人の星」である。「巨人の星」自体は、ある程度の年齢の方には説明の必要もないほどの超有名作品だが、「新・巨人の星」は、「巨人の星」作中にて最終的に左腕を破壊された主人公・星飛雄馬が、右腕投手として復活するという物語である。「新」と書いてあるからなにやら新しい作品のように思えるが、長嶋茂雄が巨人軍の監督をしていた頃を舞台にしており、江川卓が巨人に入団するか、しないかと言っていたころのお話である。

文庫版。全6巻。

ここだけの話だが、漫画が好きなので、古い作品の文庫本などを見つけると、好んで購入し、読んでしまう(こう言うときは、古書店の存在がありがたいと思う)。この作品もそんな感じで購入したものだが、なぜか「新」の方を先に読む、という流れになってしまった。「新」でない方(紛らわしいな)はテレビアニメもリアルタイムで見て大まかなストーリーは把握しているし、主人公の幼少時代のひどい状況(これも誤解であるのだが)をわざわざ読みたくないというのもあった。なので、「新」なのである。

「新」は、週刊読売に連載されたことからもわかるように、大人向けの味付けになっている。この「新」を覆っているのは、ある種のさわやかさや、美学ではないだろうか。絵柄がより劇画調に変わって、星飛雄馬も花形満も美青年そのものになっているのもそうなのだが、至るところに「さわやかさ」を演出するシーンが出てくる。個人的には、こういったシーンはお気に入りなのだ。

たとえば、親友・伴宙太が長嶋監督のもとに赴き、星を見せたいと迫るシーンがある(文庫版第1巻)。伴は、相変わらずの支離滅裂なしゃべりで長嶋茂雄の失笑を買うが、「い、いい男だなぁ、君は実に。」長嶋茂雄の懐の深さが表れている。また、星のバッティング練習を見せたときの長嶋茂雄のセリフ「僕は無性に好きなんだよ、個人的に星飛雄馬という男が…。」物語の中とは言え、実際に長嶋茂雄はこう言いそうだという臨場感が伝わってくる。伴宙太は、その財力を活かして物質的に、また精神的に星をサポートする。「だがこの古女房、だんじて離婚はせんから覚悟しとけい!」のセリフも泣かせる(文庫版第4巻)。

序盤では、元大リーガーであり、伴の招致したビッグ・サンダーが大きな役目を果たすが、星が巨人のテスト生としてまず参加することになった際、星はその境遇を受け入れ、決意を語る(文庫版第2巻)。その際のサンダーのセリフ、「ミー、日本語わかりませんが、今のヒューマの顔、好きでーす。」これはすごい。そのあと、大、中、小の抱擁シーンがあるのだが、それはここでは表現できない。

星飛雄馬が宿敵阪急ブレーブス(今のオリックス・バッファローズ)との日本シリーズに登板した際(このとき、星はまだノーコンだった)、阪急の上田監督の策でピッチャー返しを仕掛けられるシーンがある(殺人ノーコンに対する報復という設定、文庫版第3巻)。一回は、ウィリアムスの打球を背中に受けて星は転倒してしまう。星の身を案じて降板を指示する長嶋監督に対して星は、「これで阪急さんに対するすまないという気持ちがいくぶん救われました」と言って笑う。それを聞いた長嶋監督は、「な、何というすがすがしい笑い方をするんだっ星!」と感激し、ピッチャー返しを破る策があるという星の言葉を信じ、続投を認める。1塁を守っていた王貞治も、「燃える男同士のツーカーを信じよう。」と守備に戻る。このあと、見事星は高井のピッチャー返しを撃退するのだが、そのあとの上田監督のセリフ「上田の負けや、巨人の星よ。」もぐっと決まったセリフである。

花形満は、「新」ではヤクルトに入団する。ヤクルトに入団する際の広岡監督とのやり取りも実にさわやかなものなのだが(広岡監督の「信じたぞ!今こそ、君の情熱を、男としての執念を信じた。完全に!」のセリフもよい、文庫版第3巻)。このあとの紅白試合の様子である(文庫版第4巻)。試合前、花形の足を引っ張ろうとする選手の存在を警告する広岡監督に対して、花形は「プロの世界にもスポーツマンシップというものはありますが、それは血みどろの弱肉強食の向こうにあるんです。」と言って笑う。それを聞いた広岡監督は「ずさわやかな男だな、いつも花形は…。」と言って感激するもビーンボールへの注意を促す。このあと、花形はビーンボールやスライディング攻撃も軽くかわし、逆に攻撃したあげくに猛打と美技の連続で、見事ヤクルトに正式入団する。格好良すぎる男、花形満であった。

こんなシーンもある。ノーコンを克服するために遅くまでピッチング練習に付き合わせた二軍キャッチャーに星の言うセリフ「この恩は一軍に返り咲くことで返したい。」と、それを受けての「それだけが俺たち壁の楽しみ、生き甲斐さ。」(壁というのはブルペンキャッチャーのこと)というやり取りもいい。どんなシーンも、注意して読んでみたい(文庫版第2巻)。

星には、花形のほかに大洋ホエールズの左門豊作というライバルがいる。左門は、「巨人の星」の最後の最後で、京子と結婚した(京子は、どん底の星飛雄馬を立ち直らせた女性である)。この結婚も唐突すぎて謎だったが、果たしてどんな新婚生活なのかと思っていた(野暮な)。京子に湿布を貼ってもらいながら左門がつぶやくセリフ「京子…、今でも星くんば、好きかの?」「大好き!あなたと同じくらい。」というやり取りも泣かせる(文庫版第2巻)。心配していたが、こちらの生活の方は大丈夫なようだ。そっとしておきたいものである。

忘れてはならないのは、星の父親、星一徹である。実業界に移り、「新」では選手としては登場しなかった伴と、すっかり枯れてしまったと思われた一徹オヤジが、ことあるごとに星をサポートする。また、星が右腕投手として独り立ちしたときに一徹オヤジが妻の遺影の前で吐くセリフ「わしはもう、母さんの所に行く日のみを待てばよさそじゃよ。」という、ほとんど信じられないようなセリフもよい。だが、一徹オヤジは終盤に、獅子奮迅の働きで星の魔球開発をサポートする。とてつもないタフな男であり、最高の部類に属する父親である(と思う)。

ネタバレになるので、ストーリーそのものは書かないが、恋愛対象の女性(鷹ノ羽圭子)や星の調子を狂わすおじゃま選手(ロメオ・南条)、もしっかり用意されている。だがまぁそれはそれとして、上記のような男同士のやり取りを楽しむだけでもいい。ただ、やっぱり終盤は端折り気味の感じは否めない。「え?ここで終わるの?」といった感じの終わり方であり、「巨人の星」の終わり方にも通じるものがある。原作者が疲れたのか飽きたのか、そのへんはよくわからないが、出版社側の都合もあるだろうか。

ちなみに、私は個人的に長嶋茂雄や王貞治が無性に好きなんだよ、阪神ファンなんだけどね。改めて読んでいたら、もっと書きたいセリフがいっぱいある。が、それは読んでのお楽しみと言うことで…。

最終刊には、「巨人の星」と「新・巨人の星」の間を埋める作品も収録されている。実は、「巨人の星」も勢いで読んでしまったので機会があれば何か書いてみたい気がする。

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