またまた古い漫画で恐縮だ。榎本俊二の「GOLDEN LUCKY」である。講談社のコミックモーニングに連載、一世を風靡した(かな?)。1998年から1996年まで連載を続け、ワイド版コミックスは計10巻を数えるほどになった。ここのは、現在もかろうじて入手可能な、太田出版による愛蔵版である。上、中、下巻の3つに分かれている。
ナンセンス漫画といってしまえばそれまでだが、妙なくだらなさ、おかしさ、怖さ、不条理さ、ほほえましさ、卑猥さ、そんなものがすべて詰まった漫画、と言ってしまってもよいだろう。人間が登場するが、表紙にあるような、人間でないものが同じくらいの頻度で登場する。人間のような顔形をしているが、妙な頭の形をしていたり(下巻参照)、人語を話すがそうでなかったり、服を着ていたりいなかったりと、妙な生き物、としかいいようがない。
基本的に4コマだが、私の読み方としては、最初にコマ部分を読む。そしておもむろにタイトルを読む。「グループ交際の盲点」「ことわざと限度」「夕日とクマ」など、実に趣深い。初期のころには、「俺を倒してから…」みたいなものもあったが、「~と~」で続けられるタイトルは秀逸だ。この作品の重要な部分を担っていると言っても過言ではあるまい。
個人的に好きな作品は、初期のものに集中している。「かまくら」「くまちゃん」「豚のガンマン」「わんちゃん」「へたくん」「インベーダー」シリーズなど、ほのぼの笑える作品が多い。そのうち、「ジェイコブ」などが出てくると、人が簡単にスパッと切れたり死んだりして、不条理感の漂うギャグが多くなってくる。このあたりから個人的には入り込めない感じがしてきて、実は半分以上はリアルでは読んでいない。
そう、この作品では、簡単に人が切れたり、死んだりする。刃物など使わなくても、簡単に輪切りになったりする。何なんだろう、この感覚は?何でこんなに人が切れるんだ、と思っていると、今度はシモネタ満載となる。何でここまで書くかなといった、とても言葉では表現できないものだが、実はほのかなお色気、エロチックもほどよいレベルでいい味を出している。
そう、この作品に出てくる女性は、妙に美人が多い。ナンセンス漫画の美人だからたかが知れているのかも知れないが、適当に書かれている男に比べて、妙な色気のある美人や、かわいらしい女性が多数登場する。この漫画(作者の)の女性が好きだという人はけっこういる。
まぁ、書いていてもとりとめがないのだが、私の好きな作品を、台詞だけ引用してみよう。
金とぬいぐるみ
1 「オレって人の気持ちを金に換算するのが好きなんだ」「へぇ~」
2 「元気だしなよね」と女の子を慰める男。「10円!」
3 「君のためなら死ねちゃう」とプロポーズする男。「2円!」
4 「くまちゃん…」とクマのぬいぐるみを愛おしそうに抱く部長。「5万7千円…」
どうでしょう、この展開。そもそも、「人の気持ちを金に換算するのが好き」という設定がなかなかない。そして、心の伴わない軽い言葉より、熊のぬいぐるみをこよなく愛す部長のちょっとした言葉に高値を付ける、その自然な流れ。それに重要なのは、1コマ目の「へぇ~」と返した人物は2コマ目以降には登場しない。単なる相づちのみに使われたのだが、こういうのはこの作品には非常に多い。
ナンセンスはちょっと、という人でも、上巻の前半ぐらいは読んでみると、けっこうツボにはまってしまうものが必ずあるはず。特に「わんちゃん」シリーズは、かわいく、かわいそうで、お勧め。