私は風呂好きです。毎日入らないと落ち着かない、とある場所で話しましたら「そんなバカな!」と言われました。風呂なんて毎日入るものではないというのです。シャワーでいいじゃないかと。いいえ!断固言いますが、毎日風呂に入る、すなわち湯に浸かるという習慣は、何事にも替えられないと私は思うのです。
私が幼少の頃、というか大学生までの頃、家には風呂がありませんでした。なので、お風呂と言えば銭湯、そうと相場が決まっていました。で、その銭湯には毎日行っていたか?答えは否で、お金の問題(家族みんな行くと結構な金額です)もありますし、手間の問題(やっぱり出向かなければならないというのはそれなりに大変です)もありました。なので、1日おき、下手すれば数日おき(そんなバカな!)なんてことが普通だったわけです。
その反動か知りませんが、今では毎日風呂に入らなければ気が済まない(風呂が沸いていないと怒る!)、温泉も大好き(旅の目的はほとんど温泉)、そんな自分があるのではないかと思うわけです。
ということでこの作品ですが、一言で言えば、「お風呂文化を再認識する作品」というところではないでしょうか?お話が5話、そのすべてが「古代ローマから日本にタイムスリップしたローマ人建築技師ルシウス」を中心に進みます。若干ネタバレになってしまいますが、「面白そう!」と思われましたら、ぜひ読んで下さいませ。
まず、日本の銭湯(昭和30年代?車のナンバーが「足立5」とかだったからね)に飛ばされます(どのように飛ばされるかは、実際の作品を読んで下さい。なんか強引な気も…)。そこでルシウスは、あまりに進んだ文明(「ケロリン」の湯桶とか)にショックを受けます。ここで重要なのは、飛ばされるのはいつも日本で、しかも風呂場ばかりだと言うことです。まぁ、こうしないと話が成り立たないのですから、しようがないんですけど。
本人はまさかタイムスリップしたと思っていませんから、「奴隷」(古代ローマ時代ですからね)の風呂場か「平たい顔族」(すいませんね平たい顔で)の陣地に出てしまったと思うわけです(この「出てしまった」というのがポイント)。そこで、さまざまなノウハウを吸収したとたん、都合よくローマに戻り、そのノウハウをベースに新しい浴場を実現し、喝采を浴びるわけです。
こう書いてしまうとアレなんですが、要するに古代ローマのことは付け足しで、メインは飛ばされた日本側にあると思うのです。ちょっとリストアップしてみましょう。
- 昭和30年代の銭湯
- 青森県の露天風呂(う~ん、多分青森県)
- 誰か宅の風呂
- どっかのショールーム
- 秋田県のオンドル(これは確定)
具体的な場所というのは、私の推測なので、気にしないで下さい。よく読むと、キーアイテムがあります。「富士山の絵にフルーツ牛乳」「温泉タマゴに日本酒」「シャンプーハットにシャワー」「浴室テレビにシャワートイレ」「オンドルに飲泉」、こんな感じで。ルシウスの驚きを通じて、なんてすごいものを私たちは持っているんだろうという、再認識に至るわけです。
私は、ごく日常的なことを、こういうふうに大真面目に描いた作品が好きなんですね(「孤独のグルメ」とか)。当たり前になってしまって誰もの意識下に沈んでしまっているものを、実はこれはすごいことなんです、誇れることなんです、みたいな。
日本に飛ばされたシーンでは、なぜか「サブちゃん」に似た男性(女性?)も出てくる。典型的な東北人種、という位置付けなのでしょうか?今は海外在住という作者のこだわりのコラムもあって、実はこっちがメインで漫画はオマケなのでは、とも思ってしまいます。
絵はちょっと雑で、男(?)の裸体もたくさん出てきますが、何度も読み込むと味のある作品です。ぜひどうぞ。
ちなみにタイトル(THERMAE ROMAE)は、ラテン語で「ローマの浴場」という意味です。THERMAEはTHEMOに連想できますね。熱です、これは。いやぁ、奥が深いですね。