被災地には、本格的に援助の手が入り始めたようで、本当によかったです。被災地始め、現地で献身の活動に従事している方々に心より敬意を表します。
今回の震災での政府の対応を見ていて、私が昔経験したことをふと思い出しました。このことを、今回は書きたいと思います。「偉大なる素人とプロフェッショナル」です。
私は現在は書籍編集者として従事していますが、十数年前まではソフトウェアの開発技術者として従事していました。そのときは、ほとんどひとりで何百万行ものコードを書いており、仕様もほとんど自分で決めているという状態でした。仕様を決めるにあたっては、営業マンが顧客から聞いてくる要望や、開発者として盛り込みたい機能のバランスを取ることを意識していました。
でもまぁ、肝心なところでは、「こういうときは、素人の方がよい判断をするものよ。」の一言で、普段は業務に関係のない人間が出てきて意見を述べるので、開発現場が混乱するばかりか、私を始めとする開発スタッフにはいくばしかの不満が出たものです。トップが、「お前たちは視野が狭い。だから多くの声を入れる。」で来たので、無視できない面もあります。
彼らの言い分は、開発スタッフは目先に集中しているから、客観的な見方ができない、だから私たちが「偉大なる素人」として客観的な意見を述べて導いてあげる、というものでした。確かに、現場では納期やらバグやらで目先に集中していますから、仕様という根本的な部分には完全に目が届かないということはあります。
しかし、普段から研究し、実際に作業しているのは我々だから、意見は意見として伺うが、それを以て結論とはしないで欲しい旨述べてきました。実際には、どうしても目先の作業に捕らわれる我々が劣勢になり、意見を飲まざるを得ないという状況になっていました。
飲むのはいいのですが、彼らの意見はどうしても「思いつき」「場当たり」的で、整合性がとれていないことが多くなってきます。それに合わせて仕様を変更して、場合によってはコーディング済みのところも修正が必要になったり、さらに混乱の度は高くなってきます。挙げ句の果てには、仕様の不整合から「どうしても実現不可能」というとところも出てきます。
結局、どうにもならないところまでいって、「偉大なる素人」は投げてしまいました。私たちはあくまで意見を述べただけなので、これまでの意見を踏まえて、あとはあなたたちで何とかして下さい、というわけです。ヲイヲイ、だったら最初からそうさせてくれよ、と思いましたが、何とかそこから立て直し、終了まで持っていった覚えがあります。
「専門バカ」と「プロフェッショナル」は違うと思うのです。目の前の事象から一歩も外に出れないのはバカかも知れませんが、プロフェッショナルは、自分の専門分野について日常的に、少なくとも第三者よりは多くのことを見て、考えています。ですから、いざというときには彼らに任せた方がよいのです。たとえ、うまくいかない可能性があるにしても。
火を噴いたソフトウェア開発プロジェクトに、クライアントや投資先から部長クラスがやってくる、という事態は最悪です。何をするにも会議、報告、相談、と何も先に進まなくなります。彼らの任務は派遣元への進捗改善の報告ですから、それしか興味がないのです。結局、現場の自助努力で解決するということは変わらず、単に時間がかかるだけになります。
プロフェッショナルの手で、どんどん手が入っていく被災地のようすと、相変わらず人の入れ替えに終始している政府中枢を見ていると、そんなことをぼんやりと思い出したのでした。