さっそく一日休んでしまった。
新聞だって月曜日には…(以下略)
前回、活版では「活字」を組み合わせ、「版」を作成する、と書いた。
今回は、そこをもう少し掘り下げてみよう。
たいていの場合には、もととなる「原稿」がある。
原稿には、使う文字の「書体」やその「大きさ」、「並べ方」などが記されている。
書体というのは、いわゆるフォントのことである。
大きさというのは、いわゆる文字サイズのことである。
並べ方というのは、いわゆるレイアウトのことである。
原稿を見て、必要な書体やサイズに相当する活字のセットを選び出し、作業しやすいように手元に持ってくる。
活版の場合、書体と大きさは一体であると思っていい。
ある文字に対応する活字があれば、その書体と大きさは一様に決まっている。
書体と大きさが指定されても、対応する活字がないとどうしようもない。
活版では、文字の大きさは「号」という単位で決まっている。
初号~8号まであり、初号が42ポイント、8号が5ポイントに対応する。
この間、1号(26pt)、2号(22pt)、3号(16pt)、4号(14pt)、5号(10.5pt)、6号(7.5pt)、7号(5.5pt)というように埋まる。
これ以外の大きさの文字は使いようがない。
原稿が、日本語が中心の「和文」である場合には、「文選」と呼ばれる工程がある。
通常、原稿に含まれる文字の書体や大きさを見て、必要な活字のセットを選び出せばいいのだが、これは原稿が英字が中心である「英文」の場合である。
日本語は仮名、漢字など非常に文字の種類が多いので、「セットを手元に持ってくる」というのは現実的ではない。
そこで、「文選工」と呼ばれる人たちが、あらかじめ原稿を見て、必要な文字の活字を選び出しておく。
文選工については前回も触れたが、「活版」の衰退とともにその技能の必要性はほとんど消滅した。
原稿があり、活字のセットが用意できたら、「植字」と呼ばれる作業になる。
植字は、読んで字のごとく、「活字」を「植えて」いく作業である。
植字を行うのは、「植字工」と呼ばれる人たちである。
植字工については、前回は文選工とともに衰退したと書いたが、その後写真植字や電算写植の普及に伴い、鞍替えをした人も多いようである。
ただし、本来の意味での「植字工」が衰退したのは事実だろう。
植字は、「植字台」と呼ばれる窪んだスペースを使って行われる。
この窪みは、デスクの上平面が、そのまま垂直にへこんだものと思えばいい。
そこに、活字を原稿のように立てて並べていく。
(文字を組み合わせるタイプのスタンプなどをご存じの人は、それを連想して下さい)
ただし、あとで取り扱いやすいように、「ゲラ」と呼ばれる木の枠をあらかじめセットしておき、そこに活字を並べていく。
植字は、一気に行うのは難しいので、「ステッキ」と呼ばれる工具で、たとえば1行ずつ並べていく。
ステッキは、あらかじめ版の「組み幅」に調整される。
これは版の横幅だと、ざっくりと思っていればいいだろう。
ここに、活字を並べていく。
このとき、活字がめいっぱい入らないようなレイアウトである場合、左右に詰め物が必要となる。
また、行と行の間を空ける必要もある場合、行と行の間にも詰め物が必要になる。
この詰め物は、「インテル(込物)」と呼ばれている。
インテルは、活字よりは背の低い鉄板で、活字と活字の間や行と行の間を調整するために使われる。
インテルのスペルはinterであり、ITで有名なIntelとは関係ない。
ステッキ上で組み上がったものは、適当なタイミングで植字台に移動される。
このとき植字台を見ると、ステッキから移動された活字が並び、だんだんと版ができあがっていくのがわかる。
ひととおり組み上がった版は、「ゲラ」ごと糸などで結束し、固定する。
これで、版のできあがりである。
本連載の趣旨から外れるので、これ以降の工程は省くが、このゲラを用いた試し刷りがいわゆる「ゲラ刷り」であり、今でも校正刷りの意味で使われている。
次回は、この工程を「組版」という視点でまとめてみよう。