今回からは、「写真植字」、いわゆる「写植」について取り上げてみる。
組版の主流は、活版から写真植字へと移っていった。
写真植字の意味するところは、写真と同じ原理で版を作成することにある。
写真では、最終的には印画紙に像を写し、現像によって定着させる。
同様に、写真植字では、文字の像を印画紙に写し、現像によって定着させる。
写真植字で画期的であったのは、
- 文字の大きさは自在
- 文字の変形は自在
- 文字の間隔は自在
- 文字の重ねも自在
ということであった。
(1)は、活字と異なり文字の判子をネガ文字盤の形で持っていることにある。
写植の原理は、幻灯機を連想して欲しい。
文字の形に抜かれているガラス板にランプ光を当て、レンズを通してフィルムを感光させる。
(レンズの先には実際にはプリズムがあり、光の向きを変えていた)
このとき、レンズの倍率を変えれば、フィルムに映る文字の大きさを変えることができる。
活版では、異なるサイズの文字を使う場合には、それぞれに対応する活字が必要であった。
写植では、各文字1枚のフィルムで(正確には「文字盤」という形でまとめられていた)、さまざまな大きさの文字に対応できた。
(2)は、(1)にも関連するが、レンズを複数持ち、文字の大きさを決めるものに加えて、文字を縦横に縮小して比率を決めるものがあるということである。
活版では、新聞書体などの特殊なものを除き、文字は基本的に正体であった。
(3)は、文字を印画紙に写す位置は任意に指定できるということである。
活版では、文字と文字、行と行の間を空けるにはインテルと呼ばれる詰め物を必要としたが、写植では文字を写す位置を変えるという、タイプライターのような感覚になった。
(4)は、基本的に1文字1文字感光させるので、写す位置を変えなければ文字を重ねることも可能であるということである。
これは、活版では不可能であった「詰め組」を可能にした。
詰め組とは、広告などでよく見かける、文字の形、特に仮名の形に合わせて重ならないようにぎりぎりまで文字と文字の間隔を詰めて、文字の形によっては食い込ませてしまう(たとえば「く」を連続させれば、左の出っ張りは右の開きに「食い込める」)ことも可能であった。
以上、活版と比較した写植のおおまかな特性を書いてみたが、これは非常に原始的な仕組みに過ぎない。
また、写植自体も初期のものと後期のものではずいぶんと仕組みが異なっている。
次回からは、写植の変遷について書いてみよう。