「シード・プランニング」という市場調査とコンサルティングを生業とする企業の調査によれば、MNP(Mobile Number Portability)を利用した携帯電話のキャリア変更をしないと考えている人が、65.3%となっているそうだ。対象が首都圏在住の携帯電話ユーザ400人ということで、その内訳が不明なので数字をそのまま受け取ることはできないが、思いのほか高い数字であることに驚いた。だが、納得感のある数字でもあった。
MNPとは、電話番号を保持したまま、キャリアを変更できるサービスである。今年の10月頃からサービスが開始されるとされ、現在のキャリアに不満のあるユーザの大量移行が見込まれていた。私自身も、ドコモのサービス品質、料金体系に不満があり、auあたりに乗り換えようかと思っていたのだ。だが、あることで移行はしない、いや、できないと思うようになった。それは、メールアドレスである。
携帯電話のメールアドレスは、インターネットのメールアドレスであり、よってドメインを持っている。ドメインは、キャリアに固有で、ドコモならdocomo.ne.jp、auならezweb.ne.jpといった感じだ。インターネットの世界では、メールアドレスに含まれるドメインによって、メールが送られるべきサーバ(携帯電話の場合はキャリア)が決定される。ドコモ宛のメールなら必ずドコモ内のサーバに着くし、au宛のメールなら必ずau内のサーバに着く。
MNPでは、従来は固定されていた携帯電話番号のキャリア固有部分があてにならなくなるから、いったん着信を受けて、その番号から実際のキャリアを特定する仕組みが導入される。これによって、番号はそのままでキャリアを移動することが可能になる。メールの場合なら、すべてのキャリア宛のメールを一括でどこかで受けて、「メールアドレス全体」を見て、それがどのキャリアに実際にあるのかという調査を行い、しかるべきキャリアに転送する仕組みが必要になる。だが、メールの場合には実際にはそのような処理が行われる予定はない。技術的に見て非常に負荷の高い処理になるし、メールアドレス自体はユーザが手元で変更できるので、それをシステムに反映させたりしている場合、タイミングによっては不達メールが出てくる可能性もあるし、配送先を間違える可能性もあるだろう。つまり、番号は移動できても、メールアドレスは移動できない。これが、MNPを使わないとしている最大の理由だろう。
また、auに比べて弱いとされていたドコモのサービス品質、料金体系も改善され、使い勝手のよいものになってきた。FOMAサービスを利用する限り、あえてauに移行する必要性は、それほどないのではないかと感じるようになってきた。これも、MNPを使わないとしている理由になるだろう。
実は、上記の調査によれば、手数料を払ってまで移行したいというユーザの半分は、Vodafoneのユーザであった。Vodafoneについてはよく知らないので、他のキャリアに比べてサービスの品質にどれほどの差があるのかはわからない。だが、お金を払ってまで乗り換えたいというユーザが目に付く以上、あまりいいものではないのだろう。
導入が発表された当時は、ぜひ移行を検討したいというユーザが多数いたのを覚えているから、状況はだいぶ変わったものだ。だが、そもそもMNPによって三大キャリア以外に新規キャリアが参入しやすくなるというメリットがある。ニッチでぴりりと辛いサービスをウリにするキャリアも現れるはずだ。MNPを、単なる番号移動と限定せずに、携帯電話サービスの利用について柔軟性を高めるもの、として理解したい。