さて、インターネットのニュースサイトを見ていたら、こんな記事を見つけた。
妊婦タライ回し問題──なぜ検索システムは機能しなかったのか? | 時評コラム | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉
ここでは、「たらい回し」(この表現もどうかと思うが)問題ではなく、「なぜ検索システムは機能しなかったのか?」と言うことについて触れたい。聞けば、東京都には「周産期医療情報ネットワーク」なるものが存在し、空床情報がネットで確認できるようなシステム(新幹線や旅客機の座席予約状況のような)であるらしい。これに接続して確認すれば、空床のある病院がわかり、無駄な問い合わせの時間を省き、迅速な搬送が可能になる、はずなのだが。
ここで話を自分のことに戻してしまうと、現在は単行書の企画編集者のようなことをやっているが、その前はシステム屋で自らもプログラムを書き、SEのようなこともやる何でも屋であった。そのせいか、今でも勤務先のシステムに関しての面倒を見ていたりするのだ。だから、この手の話を見聞きすると、「どうしてどこでもこんなことに?」と思ってしまうのだ。
「こんなこと」とは、上記の検索システムは実はきちんと機能していなかったのではないか、ということだ。上記記事の内容だけで言ってしまえば、空床の情報を問い合わせ元に返す根っことなるデータが、実は病院の医師や看護師による「手入力」によるものだったという。私はこの話を聞いて、目を疑った。この記事にも書かれているが、システム屋は「手作業」を忌み嫌うのだ。フローのどこかに「手作業」が入ってきただけで、そのシステムは不完全である、と思ってしまうのだ。
この場合の手作業とは、医師らが折を見て端末から空床情報を更新する、といったものらしい。つまり、リアルタイムでない。リアルタイムでないだけならいいが、「忘れる」こともあるし「間違える」こともあるだろう。こうなったら、そのシステムは信用できない。根っこのデータが信用できないのだから、そのあとの工程で何をやっても無駄である。
だから、根っこに近い部分は、できるだけ信用のおけるデータを使う必要がある。たとえば、この記事にも書かれているが、病院の会計システムと連動させるとか、そういったことだ。間違いがあればそちらでもチェックできる。また、この記事にもあるように、わかりやすいスイッチで済ませば、ベッドが空いているのにまだ居ることになっていたり、その逆もチェックしやすくなる。0%にはならないが、ミスの入る確率は低くできる。
私も、勤務先で、システムとまではいかないが「仕組み」のようなものを作ることはある。たとえば、記載内容を依頼して最終的に完成された書類ができあがってくるような仕組みでは、できるだけミスをなくすために電子メールによる依頼を基本として、口頭・手書きメモは不許可としておく。これにより、依頼時におけるエラーが入り込む余地を減らすことができる(ただしそもそも依頼内容にミスのあることは防げないが:-)。依頼された側では、メールの内容からコピー&ペーストして、Word文書の雛形に貼り付けていけばよい(差し込みなどの高度な機能を使ってもいい)。だが、こういったフローを決めていても、どこかで台無しになることはあるのだ。
ある日、できあがってくる書類にあまりにミス(誤字脱字誤記など)が多いので、どのように作業しているのか担当部署に尋ねたら、「メールをプリントアウトし」「それを見ながらWordで打っている」という信じられない返事が来た。わざわざ電子メールで依頼しているのを、そこで台無しにしている。つまりその作業員は「コピー&ペースト」を知らなかったらしく、仕方なくプリントアウトして、それを見ながら打ち込んでいたそうだ。コピー&ペーストは、Windowsなどを使う場合には当たり前のスキルとして、この「システム」に組み込んでいなかったこちらのミスだ。これは、「コピー&ペースト」を使うことというルールを「システム」に組み込んで、改善された。
システム屋というのは、たとえば「業務効率が改善される」「システムの導入で誰かにとって役立つ」といった目的を達成することを生き甲斐にして働くものだ。なので、それを阻害する要因についてはかたくなまでに拒否することがある。これが、融通が利かないとか、現状を無視しているとか、コスト高になるとかで、どこかで妥協させられてしまうことが多い。そういう結果はろくなことを生み出さない。たとえば、今回の「周産期医療情報ネットワーク」も、志は高くスタートしたが、各現場(病院)での調整を考えるとだんだんと面倒になり、最終的にはインタフェースの統一できる「手入力」に落ち着いたのだろうと推測できる。このような決定をするのは、たいていは無責任なクライアントか、請負側の管理者だ。
個人的には、システム屋の心意気をないがしろにしたところでは、システムがそもそも役立っていないか、あるいは逆にものすごい無駄を生み出すか、最悪ではそれがもとで事故になるか、そういったことも起こりかねないと思っている。今回の一連の事故は残念なものだが、システム的な側面から掘り下げてくれるところがあってもいいのではないかと思い、今回の記事を書いてみた。