東京の地下は謎と陰謀と嘘に満ちている。こんなフレーズが似合う本だ。陰謀論めいた話とか、都会のミステリーとか、そんなものに惹かれてしまう私は、タイトルだけで買ってしまった。鉄道絡みというのも、惹かれる要素である。果たして、どのような内容の本なのであろうか?
同じ時代の同じ場所の地図を表しているはずなのに、なぜ違っているのか?そんな疑問をはじめとする7つの謎からスタートした、東京の地下の秘密を暴こうという本である。もとは、2002年に洋泉社より刊行された単行書で、2005年に新潮社により文庫化されている。文庫版の方をたまたま書店で見かけ、こういった「秘密」ものが好きな私は、思わず手に取ってしまったのであった。
7つの謎とは、
- 国会議事堂前駅付近の丸ノ内線・千代田線交差の謎
- 国会議事堂の設計者と施行者が不明である謎
- 首都高速環状線のパニックカーブの謎
- 南北線ホームがなぜか古い路線より上層にある謎
とかいったものなのだが、実際に本の序章を読んでも、7つの謎を定義できなかった。どうやら、単に7節あるだけの序章が、編集の段階で強引に「7つの謎」にネーミングされたという感じがする。自分なりに、謎を定義していくしかないようだ。というわけで、4つばかりわかりやすいのをピックアップしたのが上記である。
異なる地図とは、東京メトロ千代田線と、同じく丸ノ内線の、国会議事堂前駅の付近である。昭文社の地図(ニューエスト)によると、両者は国会議事堂前で交差し、霞ヶ関でも交差して、元に戻る。だがミリオンマップ社の地図によると、両者は各駅で交わることもなく、しばらく並行して走り続け、また離れていく。この二者の地図は同じ発行年(本書の単行本の発刊年と同じ2002年)で、新旧による差はあり得ない。とすると、どちらかがウソをついていることになる。このウソを暴くことが、この本のスタートとなっている。
首都高速環状線外回りを、渋谷(3号)方面から新宿(4号)方面に進むと、パニックカーブが現れる。環状線では、本線はあくまでも環状線であり、放射線はそこから分岐するのが自然な考え方である。ただし、この分岐は、そのまま進むと新宿線に入ってしまい、そのまま環状線を進もうとすると、分岐用のレーンに移らなければならない。気付くのが遅れた車両が慌ててレーン変更をするので、パニックカーブなのだ。首都高速の中でも、事故発生件数が多いポイントである。なぜ、このような変則的な構造にしたのだろうか?
東京メトロ国会議事堂前の古い構内図を入手すると、どういうわけかそこに南北線の駅と思われるものがある。また、南北線は新しい路線なのだが、どういうわけか丸ノ内線と千代田線の間の階層を走っている。地下鉄は、1m深くなるごとに建設費も維持費も増してくるから、できるだけ浅いところに走らせたいのが人情。何故このようなことになっているのか?
面白いテーマだと思うのだが、いかんせん内容がわかりにくい。特に後半は端折りすぎのような気がする。私の読書能力にもよるのだろうが、ある言葉が何を指しているのかわからないこともあり、ある地点間のことを文章で書かれていても、図解がないのでイメージがまったくわかないこともある。基本的に図解は既存の資料、たとえば古い地図や現在の地図などからの転載だが、解説のために新規に起こした図というのは数少ない。このへん、編集作業にもう少し手間をかけるべきではなかっただろうか?
また、著者の仮説に対して裏付けが取れた、といったものはなく、あくまでも「状況証拠」の集合であるような結末は、読後の消化不良の元になっているような気がする。いろいろな断片的な情報は示したから、あとはどうぞ皆さんでお好きに解釈して下さい、といった感じだ。まぁ、公式な資料が手に入れば誰も苦労せず、秘密にもならないのだろうから、それは仕方のないことだとは思うが。
とはいえ、謎好き、鉄道好きなら、興味をそそられる内容ではある。こういったテーマは、地図を眺めながら読むと楽しい。その地図が今ひとつだったのが残念なのだが、別に大きな地図を用意して、本文と照らし合わせて読むのもよいと思う。わずか数百円の投資の調査行である。