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不毛地帯―山崎豊子

見てきたような、一言で表現すれば、そんな感じだろうか。文庫版で5巻、夏頃に読み始め、途中に他の本も読んだりしていて、ようやく読み終わった、という感じである。そう、「ようやく」である。長かったなぁ、と感慨も深い。読後感は、「満足」である。

新潮文庫。第1巻。

昭和48年から5年にわたり、サンデー毎日に掲載された、山崎豊子氏による連載小説である。単行書は、4巻に分けて刊行された。のべ、原稿用紙5,000枚にもなった大作である。そして今読んでいるのが、文庫版の全5巻である。

実に臨場感溢れる作品である。その場を見ていたかのような描写、どんどん引き込まれる。これも、著者の綿密な取材のたまものだが、女性作家ならではの苦難もたくさんあったことが読み取れる。このあたりは、あとがきにも書かれているので、それを読んで欲しい。また、この作品にはモデルがあるというが、それはただの偶然である、と著者は書いている。

でもまぁ、ほんとうに偶然なのかな?とはちょっと考えればわかる。千代田自動車とか、実際はどこなの?とか考えながら読むと楽しいかも知れない。117クーペ、じゃなかった115だったか?

10月15日からテレビドラマでも開始されたので、この作品のことはご存じの方が多いであろう。この作品は、主人公壱岐正が「唐沢寿明」、その妻佳子が「和久井映見」、愛人の秋津千里が「小雪」、などである。個人的な好みから言えば、なかなかのキャスティングという感じだ。特に秋津千里の小雪などは、絶妙なキャスティングである。いや、別に、好みとかそういうことではないのだが。

このお話は、主人公が商社「近畿商事」を舞台に活躍する様と、家族との葛藤、そして男の愛を描いた物語である。ステージは、大きくいくつかに分かれている。

あえて分けてみれば、こんな感じになろうか。

シベリア抑留時代は、人としての尊厳が踏みにじられている、不毛な状況を委細にわたり書き連ねている。こんなことがあってもいいのかという状況、豊かな今の時代からは想像も付かない状況、理不尽ここに極まれり、そんなことが書かれている。極限に追い込まれながらも、信念を貫き静観する、男の生き様というものが描かれている。「壱岐正」、まさに「意気、正し」という真骨頂。

帰国後、壱岐はしばらくの浪人生活の後、「近畿商事」に入る。商事のことなど、何もわからない壱岐だが、もとより持っている素養と、参謀時代の蓄積からなのか、徐々に頭角を表してくる。最初は壱岐を見下してきた者たちも、恐れるようになってくる。

ストーリーを詳しく書いてもしようがないが、何が「不毛」なのか、この作品のテーマであろう。物理的な不毛、シベリアの不毛、イランの土漠の不毛。そういったものを表すこともあろう。だが、精神的な不毛、というのもあるだろう。

特に、商社時代の不毛。信念を貫くことでも生じる不毛がある。信念を貫くことで誰かを不幸にしていることもある。自分は正しい道を歩んでいるようで、誰かを犠牲にしている。誰かの不幸を踏み台に今の自分があるという状況。何が正しくて何が間違いなのかもわからない状況。

男向きの作品、という気はする。愛憎は、最小限に抑えられている。ビジネスのダイナミクスに溢れる展開、そういうものが好きな男なら、長い時間をかけても読んでおきたい作品と言える。

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