PDF(Portable Document Format)を用いた校正が増えてきた。もちろん、出版物の校正の話。以前は、校正と言えば紙でというのが普通だったが、PDFのメリットを優先してこちらを選択する人も増えてきた。
このPDF校正、本当に便利なのかな?
個人的に感じている、PDF校正のメリット。それは以下のとおり。
デリバリーコストが(ほぼ)ゼロ。
紙だと、手渡したり宅急便で送ったりと、デリバリーコストがかかる。PDFの場合、メール添付、データ便のようなサービス、クラウドなど、ネットインフラの利用に必要なコスト以外はほぼゼロ。
デリバリーのオーバヘッドが(ほぼ)ゼロ。
紙だと、直接手渡しする場合を除いて、相手の手元に届くまでの時間が必要になる。宅急便なら、通常は一昼夜。遠隔地や離島では、さらに1日かかるなど、その時間はバカにならない。PDFの場合、送れば相手はただちにメールを見たりダウンロードを開始したりできる。
資材コストが(ほぼ)ゼロ。
紙だと、もちろんレーザプリンタなどで印刷するためのトナー代、インク代、用紙代がかかる。PDFなら、アプリケーションから書き出すだけ。以前は特別なソフトウェアをかましてPDFを作成していたが、今ではほとんどのアプリケーションがPDF書き出し機能を備える。
いつでもどこでも校正。
紙だと、現物を持って歩かないと移動中や移動先の校正はままならない(移動しながらでも校正するのね…)。PDFなら、持ち歩いているノートPCやタブレットに入れておけば、いつでも校正OKだ(いつでも校正するのね…)。
検索などコンピュータならではの機能が活用できる。
紙だと、すべての情報は目視するしかない。なので、「あそこではどのように書いたっけ?」みたいなのを紙をめくりながら延々と探すことになる。PDFなら検索機能を使えばOK。用語・用法の統一に威力を発揮する。
書き込みの内容を漏れなくチェックできる。
紙だと、同じくすべての情報は目視するしかない。なので、せっかく入った赤字も、見逃すことがある。PDFなら、注記のリストを順番にあたり、確認が済んだら削除なり「済み」の指定をすれば漏れなく作業することができる。
へたくそな字に悩まなくていい。
紙だと、字に不自由な人の赤字の内容に悩むことが多い。もちろん、そんな人ばかりではないが…。PDFなら、テキストデータとして書き込まれるので読めないということはない。ただし、字が読めるというのと、書いてあることが理解できるというのは別物だが…。
修正データの拾い出しも楽。
紙だと、長い文の修正など、書き込んである文章を読み出してDTPで修正する必要があり、その段階でミスが生じる危険性がある。PDFならコピペでOK。そこにミスが紛れ込む可能性はグッと低くなる。
校正が手元に残る。
紙だと、赤字を入れた校正紙を送り返してしまえば、コピーしたりスキャンしたりしない限り、手元には残らない。なので、次の校正が来たときに、赤字が修正されているかの確認ができず、元の校正紙も送ってくれるように頼んだり、手間もデリバリーコストも余計にかかる。PDFならコピーが手元に残るというより、コピーが送られるので、同じものを両者で見ながら作業できる。
なんだかいいことづくめのようだが、ところがどっこい、そうは問屋が卸さないのだ。光あれば陰がある。PDF校正にだって、デメリットはある。
赤字の指示が面倒。
赤ペンでサクッと書き込むのに比べ、PDF編集ソフトで指示を入れるのはけっこう面倒なのだ。面倒なので、時間もかかる。線を引いて何文字か書き込むだけなのに、何でこんなに手間なの〜!と思うことはしょっちゅうだ。
赤字の確認が面倒。
注記リストを見ながら確認できるので便利で確実だとは書いたが、すべての作業をPC上で行うのは、意外としんどい。確認は紙で、修正はPCで、というと作業が脳内でうまく切り離されて、混乱することも減り、疲労も減るような気がする。
PDFソフトのバグに悩まされたり。
直感的でアナログな紙に比べると、PDFだとPDFソフトのバグというか妙な振る舞いに悩まされることがある。こういうのにはまると時間がもったいなく、「あ`〜っ」と叫びながらそのへんを転げ回りたくなる。
メリットに反してデメリットは少ないので、総体的に見てメリットが上回るんだろう。なので、PDF校正が増えているというわけだ。個人的には、今のところ、ハイブリッド校正を推奨している。
- 初校は紙で。赤字も多いことが予想されるから。また校正期間も長く、デリバリーの時間やコストの比重も低い。
- 再校以降はPDFで。赤字も減り(願望)、校正期間も初校に比べれば短くなるから、PDFのメリットが活きる。
また、デリバリーだけに重点を置いて、こんな方法もある。
- PDFを送付、受け手が印刷、手書きで赤字を入れてスキャン、PDFを返送。
移動中のみPDFという技だ。へたくそな字などの問題は解消されないが、紙が飛び交わないというのはメリットである。ただこれには大きなプリンタやスキャナが必要で、誰でもできるというわけではないことに注意。
ということで長々書いてきたが、時代の趨勢というのは、やはり電子化に進んでいるんだろう。原稿が、原稿用紙からワープロに移行したように、組版が版下からDTPに移行したように、校正も紙からPDFになる日が来るんだろう。
個人的には、そんな日が来て欲しい。紙の節約にもなってエコだし、何しろ廃棄する手間がない。あ、これは書かなかったけど、編集者側の大きなメリットだね。