本を読んでみた記「編集者という病い」(見城徹)

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こんばんは、エンジニャー的編集者こと、なおさんです。今週になって東京・横浜地方の天気は荒れ模様で、週末には台風も近づいているようです。1年前の土砂災害の記憶も新しい今、災害への備えを考える機会にしたいですね。

今日は、本を読んでみた記です。見城徹著、編集者という病い。このタイトル、本を作っている編集者なら、興味を抱かずにいられませんよね。しかも、見城氏といえば、編集者として超ビッグネームであるばかりか、幻冬舎の創業者でもあり、ベストセラーを次々と送り出した編集者でもあります。

私などは、足元どころか足の小指の先っちょに引っかかるか引っかからないかというレベルの編集者なので、殿上人はどのようなことを考えて、どのようなことをしているのか、興味津々で読んでみました。

この本に関する感想は、編集に携わっている人と、読み手すなわち一般の人では、相当違うものになるのではないでしょうか? というのは、この本には、著名な作品が生まれたバックストーリーのようなものが、たくさん収録されているからです。

たとえば、尾崎豊の、松任谷由実の、坂本龍一の、これらの名作がどのように生まれ、世の中に出て行ったか? 本の本編やあとがき、寄稿文を読んでもわからないような裏話的なことが、そこには書かれています。

編集者視点ではどうか? さらっと書かれている中に、きっと実際はそんなもんじゃないはず、といった読みを加えてしまいます。わずか数ページで、名著のことを語らなければならないので、相当なダイジェスト版です。最後は、「あ〜あ〜そうか、よかったね、結局出せて、よかったね。」でしょうが、そこに至るまでの流れはそんなに単純でなかったはず。つい、我が身を重ね合わせ、泣いてしまったり、笑ってしまったり、勝手に想像しながら読んでしまうのです。

さらに!編集者であれば、どこかに金言が落ちていないか、目を皿のようにして探すでしょう。でもご心配なく。序章に、その走りが書かれています。

  1. オリジナリティがあること。
  2. 明快であること。
  3. 極端であること。
  4. 癒着があること。

これだけでも、「うん、なるほど!」と思えるか、思えないかでしょう。オリジナリティには自信がある、けどいろいろ盛り込みすぎて明快でなくなってしまった、売れないのを恐れてどっちつかずの宙ぶらりんになってしまった。う〜ん、思い当たるところたくさんあり。ところで「癒着」ってなんでしょう? これはちょっとわかりにくい話なので、ぜひ実物を読んでくださいませ。

これだけじゃないので、特に「SOUL OF EDITOR」の章は、穴が空くほど読んでください。

ところで、編集者の仕事と一言で書くと簡単ですが、実際にはいろんなことをやっています。非常にたくさんのこと、しかも種類の違うことをするのですが、人によって、また手がける本のタイプによって、その比重は大きく異なると言えましょう。

見城氏は、実用書の版元(廣済堂出版)に入り、実用書をヒットさせる脇で文芸書への渇望があり、角川書店になんとか入ってからは頭角をメキメキ現していったという、筋金入りの文芸書編集者です。何が違うかというと、著者との付き合いがほぼすべて、と言える点でしょうか?

対する実用書編集者は、著者もさることながら、内容、紙面の見せ方、装丁など、全体にバランスのとれた能力を求められます。図鑑や辞書の編集者は、校正や検証など、緻密さを多く求められましょう。

このように、編集者の仕事はジャンルでだいぶ変わってくるのですが、一般の人が受ける編集者の印象というのは、実は見城氏のように著者に張り付き、寝食をともにしたり、ほぼ人生を共有するとまでいく人のこと、そんな感じではないでしょうか?

そうすると、この本は一般の人にも面白く読めるのではないかと思います。冒頭では、受ける印象はだいぶ違うと書きましたが、実は興味の対象は編集者と読者で相当重なる部分があるのではないかな、と思ったりします。

逆を言えば、実用書の編集者、専門書の編集者の仕事、という方が理解しにくいかもしれません。確かに、私も、自分の仕事内容を説明しろ、と言われても、すっきりと答えられません。その点、文芸書の編集者なら、○○先生の本とか、××出版で出してますといえば、一発でわかってもらえます。

現役であるうちは、自分の本は決して出さないと公言していた見城氏が、方針を変えて一冊だけ出すとして出てきた本。本のことを書いた本として、本好きならば読んでいただきたいと思う本です。

編集者という病い (集英社文庫)

編集者という病い

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