私は巨人ファンではないのだが、藤田元司氏が逝去されたというニュースを聞き、真っ先に思ったこと…。不謹慎なことに、ご当人の現役時代のことでも、監督時代のことでもなかった。こともあろうに、川原泉のコミック作品だったのである。ONに比べれば影薄く、投手出身でリーグ優勝、シリーズ優勝などの快挙を成し遂げた名監督に対しては、あまりに失礼なというものか…。
本題に入る前に…。
故人の冥福を謹んでお祈り申し上げます…。
川原泉の異色プロ野球コミック「メイプル戦記」には、主人公球団である「スイートメイプルス」のライバル球団「東京タイタンズ」の監督として「富士田」なる人物が一貫して登場する。これが、藤田元監督のことを指しているのは、言うまでもあるまい。そのキャラクターは、敵球団ながらも憎めない性格である。オールスター戦で、不仲の夫婦仲を回復すべく試みた自分の人情采配に酔い、色気に負けてピンチヒッターを出してしまう、ユニフォーム互換のパジャマとナイトキャップで寝る、負けても勝っても謙虚な感じがするのは、果たして現実を映しているのか？作者の川原泉がそこまで考えてキャラクター設定を行っていたかはわからない…。同時に登場していた筒見氏（誰のことかはわかるはず）とは偉い違いである。
で、この作品は、初の女性だけのプロ野球球団「スイートメイプルス」が主人公の、文庫でも上下巻に分かれている大作だが、プロ野球を知っているなら二倍楽しめる、異色の内容だ。チーム設立、選手募集、冬季キャンプ、オープン戦、前半戦、オールスター戦、後半戦、とフルシーズンをカバーした内容となっている。チームのメンバーも、オカマの剛速球投手、宗教オタクのアメリカ人投手、魔球マニアの変化球投手、お嬢さん学校出身の捕手、4つ子の内野手、別居中の亭主がライバル球団にいる外野手、強打者のアメリカ人外野手、ディスコクイーンだった異様に足の速い外野手と、バラエティに富んでいる。これに、ヒロオカ監督（もちろん女性だ）が加わったチームが、メインキャラクタだ。
脇役も見逃せない。高校野球時代のライバル監督による几帳面なコーチ、球団社長兼食堂のおばさん、オカマ投手の恋人（？）である新人王、オカマバーのママと女の子（？）、そしてメイプルス選手の別居中の亭主であるライバル球団の剛速球投手、といった具合である。よくもまあ、こんな設定を考えつくものだと脱帽。
しかも、実在の選手をパロディにした他球団の選手たちも多彩で楽しい。今となっては、「新城くん」など笑ってしまう。これは、オールスター戦でばっちり楽しめるし、シーズンを通じて常に誰かが登場している。波瀾万丈、笑い、涙、蘊蓄、何でもあり。
川原作品に共通の、「最後には悪人はいない。」は貫かれ、読み終わって幸せな気分になるのはいつもどおりだ。
イメージがないよ、とほほ。
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