千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン―野村進

千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン (角川oneテーマ21)

なぜ日本にだけ老舗企業が残るのか、これがこの本の最大のテーマだろう。

ちなみに、日本に老舗企業といわれる会社が、どれほどあるか想像が付くだろうか?100社?1,000社?いえいえ、10万社以上はあると言われている。ここで言う老舗とは、100年以上続いている会社を言うが、意外と多いな、というのが感想ではないだろうか?100年以上続いている会社が、10万以上もあるのだ。中には、個人事業や小さな会社も含まれるが、それにしても多いような気がする。

多いような気がする、と書いたのはほかに比較対象がないからで、実はこのように100年以上も存続している会社が多いのは、日本独特のことらしい。欧米、アジア圏などを見渡しても、このような規模で老舗の存在する国はないらしい。まずは疑問、なぜ日本にのみこのように老舗企業が集中するのか、それを数十社への取材によって明らかにしている。
100年以上を老舗、などと言っているが、数百年などという会社もごろごろある。最も古いとされているのは、飛鳥時代に大阪の四天王寺を建てることに携わった金剛組という会社らしい。著者も言っているが、飛鳥時代といえばマホメットが開祖するより古い。とてつもない古さだが、そういう会社が今まで続いてきたのだ(金剛組は最近再建されたが)。これはまったくもって驚くことだ。

著者はこれを、かつて植民地支配がないこと、日本人独特の気質によるもの、と分析している。植民地支配がなければ、自国の文化を継続できる。また、支配層、大衆ともに職人を尊び、伝統を重んじる気質がそれを支えたと言える。こういった複合的な要因が、老舗を存続させしめたのだ。

老舗といえば、古めかしい家屋にあまり派手でない事業を展開しているかというようなイメージだが、ところがどっこい、ハイテクの最先端にいる企業は非常に多いことがわかる。今や必需品となった携帯電話だが、ハイテクが惜しげもなく投入されるこの機器の随所に、老舗の技術が生かされる。老舗は古いだけじゃなく、新しいのだ。このへんも、存続の秘密になっている気がする。ただ、時流に乗って新しいものだけを追いかけているだけではダメらしい。創業時につながるものを、たとえ規模は小さくてもきちんと守り続けることが、老舗の精神の維持に役立っていると言うことだろうか。

この本は、下手すれば精神論に傾きそうなテーマを、取材によって老舗の現在を淡々と語り、また取材先に語らせることによって、間接的に読者に伝える努力をしている。技術的な話や、取材先で見たもの、聞いたものを語る感じになっているので、堅苦しくなく一気に読める。読後はさわやかで、何かこう、肩の荷が下りた気がする。そう、老舗はどこも気張っていないような気がする。

働くとはどういうことか、企業は何のために存在するのか、気づきを与えてくれる一冊だ。

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