携帯バカ二人

何となく「椎名誠」風のタイトルを付けてみたが特に意味はない。この間の雨の夜のこと、仕事帰りの電車の中で見掛けた妙なやり取り。いや、やりとりというか微妙なすれ違い、と言うべきか。乗客は立ち客がちらほらいる程度でほとんど混んでいない。私の降りる駅まであとひとつ。その駅に停車中、おもむろに携帯で話し始めたサラリーマン風の男がいた。仮に彼をA氏としよう。

A氏は、おもむろに携帯電話で話し始めた。大半は仕事絡みの話だったが、いかんせん声が大きいのだ。電車は駅に停まってるんだから、外に出て話せよ!とか私は思ったが、イヤでも聞こえてしまう。A氏はなぜか、ひたすら謝っている。何か不祥事でもしでかしたのか?と興味津々で耳を傾けると、別に仕事に対するトラブルとかでなくて、こんな時間に電話してゴメンネ~というニュアンスだ。何だ!だったらこんなところで電話するなよ!とか思ったが、A氏は多分、社会への道理より身内に対する義理を優先する男なのだろうと思い切って、無視することにした。普段なら、胸ぐら掴んで張り倒した上に、踏み押さえて罵倒するところだ。だが小心者なので、それは想像の範囲内なのであった。

だが、そこに敢然と立ち向かった男がいた。彼を仮にB氏としよう。彼は座っていた席からいきなり立ち上がり、なにやら叫びながら、ドアの前に立った。そのとき、すでに電車は発車し、ドアは当然閉まっているのだった。私には聞こえた。「ふざけた電話してんじゃねぇ!」ムムム、これは一触即発か?と思い私は緊張した。だが、A氏はそれを聞くまでもなく、空いた!空いた!わ~い!という感じでB氏の座っていた席にそのまま座ってしまった。これはなんたることだろうか。

B氏はどうなったか。怒りの対象のはずのA氏が目の前から消え、いつの間にか自分の座っていた席にちょこんと座っているのだ。これは怒り心頭か?と思い、私は緊張した。B氏は、持っていた傘をずん!ずん!と床に突いて怒りの感情を表明している。ムムム、これはまずい。バトル発生か?と思い私はさらに緊張した。だが、B氏はこともあろうに、いきなり電話をかけ始めた。「もう着くけどさ、雨だから迎えに来て?そうそう、ファミリーマートの前。」ヲイヲイ、さっきの怒りの言葉と裏腹のおまえの行動はいったい何だ?あっけにとられるのは私だけではない、周囲の座っていた乗客もそんな感じであった。

しばらくすれば次の駅に着き、私も降りる駅であり、こともあろうにB氏も降りてしまった。まさかA氏が追いかけてこないかと思い、おそるおそる振り返ると、A氏は座ったまま寝ているかのようであった。ほっとしつつも、こいつらいったい何なのだ?と微妙な接点を感じたのだが、実は皆酔っぱらっていたのだろうということで強引に結論づけたのであった。

ちなみにB氏は、傘を真横に持って、前後に振るタイプの人のようだ。階段では危険なのでやめて欲しい、と心から思った。

コメント

  1. 野の花 より:

    電車の中でのひとコマ。そして一部始終を何気ない顔で見守るなおさん。なおさんのつぶやきはいつもおもしろいですね。A氏やB氏の背景がおぼろげながら見え隠れしました。
    電車にはもう10年以上乗っていません。いえ、20年近く乗っていないかもしれません。こちらは言うまでもなく田舎ですから、JRのみ。車で行ける所は家の前から車で出発した方が早いのです。でも、乗ってみたい・・・電車に乗ることにあこがれます。子供の夢みたいですね(笑)。

  2. なおさん より:

    野の花さん、
    こういう情景って伝えるのが難しいですね。自分では見てきたからイメージできますが、それを第三者に伝えるとなりますと、ね。
    ところで、電車に10年以上乗っていないとは驚きです。私など毎日ですからね。でも電車の移動はいいものです、渋滞にいらいらすることなく、ダイヤに身を委ねて、ゆったりと移動できますから。でも、事故や故障で停まってしまうのは勘弁ですね。