暗号解読―サイモン・シン

「暗号解読」(サイモン・シン、青木薫訳)を読んだ。サイモン・シン作「宇宙創造」に続いての読破である。実は、出版された順とは逆になっていて、最初の作品「フェルマーの最終定理」はまだ読んでいない。
暗号解読〈上〉 (新潮文庫)
サイモン シン
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おすすめ度の平均: 5.0

5 暗号の歴史をドラマチックに
5 暗号とはこんなにも奥深いものだったのか
5 暗号の時代は 実は今なのだ
5 暗号がここまで歴史を左右していたとは・・・
5 平易に歴史的流れに沿って、その上遙かにドラマテックに教えてくれる

暗号解読 下巻 (新潮文庫 シ 37-3)
サイモン シン
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おすすめ度の平均: 5.0

4 物足りないところもあるが
5 その場に居合わせたかのような臨場感で読ませる暗号の歴史
5 暗号の善と悪
5 平易に歴史的流れに沿って、その上遙かにドラマテックに教えてくれる
5 暗号は歴史を読み解く鍵になる

はっきり言って面白い。コンピュータをやっていて、多少なりとも暗号に関わっていれば、なおさら楽しく読める。いや、歴史が好きで、謀略ものが好きで、数学が好きで、ドラマが好きなら絶対に面白い本だ。これは保証できる。

暗号の役割とは何か。それは、情報を盗まれることなく、真に届けたい相手にのみわかるように秘匿することである。このようなニーズは、古代からあった。ニーズのほとんどは国家に絡んだものであり、いかに敵対する組織に盗まれず、相手国や人に届けるか、その闘いであった。表には現れない歴史、それを暗号が握っていたと言っても過言ではあるまい。

この本の代見どころは、ふたつある。ひとつは、暗号の仕組みが徐々に強化され、解読されてはさらに強力な暗号が出現してと、技術の進化を追うことができること。もうひとつは、暗号がいかに歴史の背後で暗躍していたか、それを知ることができること。前者は数学好き、コンピュータ好きには楽しめる内容だし、後者は歴史好き、ドラマ好きに楽しめる内容だ。

技術的に見れば、単なるアルファベットの置換(たとえば1つずらすだけなど。たとえばHELLO→IFMMP)からマップを用いての置換、カエサル暗号、エニグマ暗号、DES暗号、そして究極とも言えるRSA暗号まで、その進化を詳しく説明している。難しい数学の式などは出てこないので、文系の人でも楽しめる。今、コンピュータを使っていて、暗号化された通信の恩恵を享受できるのは、RSA暗号のおかげだ。この、ほぼ解読不可能な暗号の発明によって、通信の安全性は極めて高度に保証されている。だがこれは、反社会的な組織にとっても同様で、政府組織は彼らの通信を傍受できないことになる。守りを強化すればするほど、敵に塩を送ることにもなるというのは皮肉だ。

暗号は、歴史を変えてきた。古くは英国のメアリー女王の処刑に暗号がいかにかかわっていたか、第一次大戦、第二次大戦でどのように暗号が戦局を左右したか、破竹の日本軍の暗号が攻略されたことで戦局がどのように変わったか、など興味深い。決して教科書には暗号のことなど出てこないが、実際に流れを変えてきたのは情報戦のカギを握る暗号だったと理解できる。いかに強力な軍備を誇っても、暗号戦に勝てなければ敗北する、これは近代戦の特徴のようだ。

ほかには、登場する人々のドラマが素晴らしい。「宇宙創造」でもそうだったが、いかに技術論が語れようとも、その中心にいるのは人間なのである。科学者、政治家、その他の人々、歴史を変え、技術を革新し、脚光を浴び、不運のまま没したり、さまざまだ。軍の組織にいれば情報は隠さねばならず、功績が評価されるのは没後だったりと、人生とは何かを考えさせられるほどのものである。

最後は、量子コンピュータによる暗号に触れている。現在最強といわれているRSA暗号は、解読するためには地球上のコンピュータをすべて使っても、宇宙の寿命のをはるかに超える時間が必要だという。だが量子コンピュータによれば、たとえば1分という時間で解読が可能になってしまうこともあり得るという。こうなればRSA暗号はその寿命を終え、量子暗号にポジションを譲るのであろう。量子暗号は、すでに実験では成功している。こうなると、暗号の技術フェーズが切り替わる。そう、過去にも幾度となくあった切り替えが、起きるのだ。それは、そう遠くない未来のことかも知れない。

この作者は、難解な内容を普通に解説することにかけては天才的だ。翻訳もよくできている。まさに、「知的探検」という言葉が相応しい。久々に、読んでスカッとなる作品であった。

コメント

  1. 野の花 より:

    こんな難しい話題にはついて行けない私ですが・・・古代エジプトの象形文字、それこそ最大の暗号ではなかったかと思います。それを解読した人は偉大だと思います。
    第二次世界大戦で・・・暗号を使って、アメリカに日本軍の情報を伝えた日系人スパイの物語があります。「エトロフ発緊急電」(佐々木譲)。戦争という巨大な歴史の波の中に翻弄された男と女のロマンスも織り込んだその小説は私のお気に入りです。

  2. なおさん より:

    野の花さん、
    エジプトの象形文字、ヒエログリフのことは、しっかりこの本にも取り上げられています。ですが残念なことに、私にとってはあまり面白くないテーマでした。表音なのか、表意なのか、分断されたほどのテーマではあるのですが、
    「エトロフ発緊急電」はチェックします。ちなみに、エトロフはわざわざ入れないと出てきませんでした。漢字なら出てきます。