下町は好きだが下町感覚が苦手ということがわかったできごと。

この日は、昼食を職場から駅に向かう途中にあるお気に入りの中華料理店で採り、その足で新宿の書店に向かう予定だった。その中華料理店は、営業を開始してから50年ほどというちょっとした老舗である。お昼時ともなればいつも混雑しているので、ブログ主はピークを過ぎて客足が退きつつある頃、あとこれが重要なのだが2時からの喫煙タイムが始まるまでの30分ほどの間を狙って訪れることにしている。

こぢんまりとした店内、懐かしい味の料理、テキパキ動くおねえさん2人という、今では珍しくなってしまった部類のお店だ。ブログ主は、この雰囲気と料理の味がお気に入りで、2週間に一度ほどのペースで訪れているのだが…。

この日、1時半ほどに訪れると、店内は珍しく3~4分の入りというところだった。これはラッキーと思い、おねえさんに声を掛けて隅っこのテーブル席に陣取らせてもらった。レバーが柔らかく美味しい「レバ野菜定食」を即座に注文し、新聞など読み始めた。

続けて、おじさん1名、中途半端な若者3名、さらにおじさん2名、おじさん1名と、あっという間に店内は一杯になった。ブログ主が気になったのは、派手なアディダスのトレシャツを着た3名の中途半端な若者だ。彼らはブログ主のテーブルの隣に陣取り(以前にもこんなシーンがあったような?)、テーブルの上に喫煙セットを置き、注文を始めたのであった。

イヤな予感がした。既視感に覆われた。彼らは、食事を終えたころに喫煙タイムになるのを見図って参上したのだ。しかし、喫煙タイムが始まるまでにこちらが食事を終えてしまえば、それは関係ないのでさほど気にしないことにした。

なぜか、ブログ主のあとに注文したおじさんのところに定食が先に来た。まぁこう言うこともあるだろう。厨房にも調理の都合もあるだろう。と思っていたら今度はその3人組のところに次々と定食やら麺類やら餃子などが運ばれてくる。

ブログ主は焦った。彼らの方が先に食事を始めてしまえば、先に終わる確率が高いではないか。とすると、喫煙タイムになる前にフライングでアッシュトレイを要求する可能性は高い。ブログ主は気が気でなかった。

そうこうするうちに、別のおじさん2名のところに冷し中華が運ばれてきた(ようだ)。冷やしってわりと手間がかかるんじゃないの?と思っていたが、いやいやレバ野菜炒めは、レバーに下味を付けるのに時間がかかっているのかも知れない(んなわけない)じゃないかと思って冷静さをキープしようと努力した。

そうこうするうちに、3人組がご飯をお替わりしだした。ちなみにこのお店はランチタイムはご飯大盛り無料である。彼らは大盛りにして、しかもお替わりなのだ。その派手なアディダスのトレシャツといい、彼らはノー○ラスク○ブ関係者に違いなかった。

これは注文が通っていない!しかも喫煙タイムまでのリミットはどんどん近づいている。ブログ主は、立ち上がった。そして注文をキャンセルして店を出ようと思った。普段なら注文を確認して待つのだが、喫煙タイム開始というプレッシャーが判断を狂わせた。

しかし料理はほとんどできていた。「すぐお持ちします」という声、「キャンセルしますか?」という声、ブログ主は混乱した。店内の視線が集中した。先ほどまで大声で会話していた3人組も自分たちに関係があるのかと思ったのか、静かになった。

「食べていきます…。」とだけ伝え、ブログ主はテーブルに戻った。キャンセルしたらあの料理はどうなるのか…。そう考えたら食べないという選択肢はなかった。喫煙タイムまであと10分というところで、料理が運ばれてきた。憎らしいくらいにうまそうだった。

だが、こいつをゆっくり味わっている猶予はないのだ。書店に急いで行きたいわけじゃない、ただ喫煙タイムが…。ワカメと豆腐入りで、煮干しのダシがきっちり効いた熱い味噌汁を啜る。ほどよく味が付けられた柔らかいレバーをほおばる。ピカピカのご飯をかっ込む。生姜のアクセントが効いたお新香をつまむ。このサイクルを大急ぎで回す。

何ということだ。何でこんなに急いで食べなきゃならないんだ。もっとゆっくり食べたいんだ、俺は。理不尽さに震えつつ、なぜこんなことになってしまったのか(食べながら)考察した。

そもそも、注文の順番どおりに料理が来ないのはなぜなんだ…。ブログ主はキャベツとキクラゲを奥歯ですりつぶしながら想像した。考えられるのは、この店ではスタック方式、つまり「後入れ先出し」の方式なのではないかということだ。これはつまり、伝票を積み重ねて、上にある伝票から順に調理していくというものだ。だがこれだと注文がある限りもっとも早く注文した人にはまったく順番が回ってこず、非現実的だ。ブログ主は、その考え方をすぐに却下した。

次に考えたのは、バッファリング方式だ。おねえさんは、あるまとまった単位で注文をバッファし、それをまとめて厨房に渡すのだ。このとき、伝票は上に積まれていく。この日、短いタイミングでどどっと客が増えたので、その単位でバッファされたのではないかと推測できる。すると、最初に注文したブログ主の伝票はもっとも下になり、そのまとまりでは最後に処理されるということとつじつまが合う。

だがこれでもブログ主の次に注文したおじさんのものが最初に来たことの説明はできないのだ。何だか手詰まり感を感じているうちに、食事を終えてしまった。きっかり喫煙タイムだ。お冷やを一気に飲んで立ち上がったブログ主に「すいませんねぇ。」「お急ぎのときには声を掛けてくださいね。」と言ってもらえるのがうれしい。だが、おねえさんたちの目は笑っていない。そう、やっかいな客認定されたのだ、ブログ主は。

書店に向かう副都心線の中で考えた。ブログ主は下町的なものは好きだが、下町的な感覚には合わせられないのではないかと。システム的には、注文順に調理されてサーブされるのが正しい。もちろん、料理によって手間や時間は変わるので、多少の前後はあるだろう。しかし、そもそも順番をさほど気にしていないということならどうするか。どんどんやっていますから、あまり気にしないでくださいな、ということとすると、どうしてもその感覚には違和感を感じてしまう。きっちりやって欲しいと思ってしまう。

喫煙タイムのせいだよ、とも思ったが、この制約がなくても、おそらく理不尽な思いは生じたのではないか。それほどまでにシステム的な感覚がバッチリ組み込まれていることが改めてわかった。特に制約のない限り、リクエスト順に処理が始まり、処理終了し次第レスポンスが返されるというシステムに。

まぁこの日は極端だったのだろう。何だかさい先悪そうな気がしたが、書店での目的は達成できた。あとは、この店に再度訪問する勇気があるかだが、それこそ下町感覚で行けば、気にする方がおかしいということになる。もう一度、自分の感覚を確認するために、2週間ほどあとに行ってみようかと思っている。

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