大阪で、観光バスの事故で添乗員が死亡する、という痛ましい事件があったらしい。しかも、運転手は21歳、添乗員は16歳、しかも彼らは兄弟でバス会社は同族経営、役員は両親と聞いて、ここまででもすごい話だと思ったのだが、実はその先があった。聞けば、運転手の21歳青年、月の休みは1日ほどしかなく、今回も連続した深夜運転を行っていたらしい。そういう過酷な勤務状況が今回の事故を引き起こしたのは間違いないが、これを規制緩和による参入障壁の低減、といった見方で片付けてしまうのは簡単だ。
話によれば、平成11年の「貸切バス事業の規制緩和」により今回のような同族で小規模な事業体でも貸し切りバス事業、つまりツアーバスのような事業に参入できることが比較的容易になったらしい。今回も、バスを一台保持し、従業員は家族ということにして、低いコストで価格勝負を仕掛けているという構図だったのだろう。このこと自体は悪いことではないし、どのように運営するかは個々の事業体の勝手である。ただ、最終的に人命が失われるというところまで行ってしまえば、それはやり過ぎである。それでも、ここで、やはり規制が必要、規制緩和は間違っていた、というように流れていってしまうのも、誤りだと思うのである。
ツアーバスを使うのは、基本的に旅行会社の組むツアーなどであるが、ここも競争が激しいらしく、できるだけ安価なお得感のあるパッケージを組む傾向がある。そうなると、運賃、宿賃、そういったものをできるだけ切り詰めていくのだろうが、その結果としてできるだけ安いツアーバス会社を選ぶことは自然である。ツアーバス会社の方も、自分たちを使って欲しいから、他社に負けない価格設定で押し出すところが多くなってくる。この流れは基本的に止まらないから、どんどん低価格化が進み、それは経営内容の悪化、勤務体制の悪化という形で現れてしまう。
すべてを市場原理に任せよう、ということになれば、こういう風になってしまうのだろうが、市場は金額だけがその内容ではない。金銭的対価の反対側にあるのはモノであり、それは質だったり量だったりする。その適正なバランスを保てないような状況は、市場原理がまっとうに働いているとは思えない。まっとうに働いているとは思えない状況が、今の状況なのではないか。
以前、中国産の輸入野菜が問題になった。国産のものに比べて遙かに安い価格で販売されていた中国産野菜は、一時期は人気だったような気がする。だがその後、基準以上の農薬の使用や許可されていない薬剤の使用など、いろいろな問題が明らかになるにつれて人気は落ちていったように記憶している。私自身も、すごく安いしいたけなどを買って喜んでいたが、食べてみたら何だか味がおかしいような気がして、食べるのをやめた記憶がある。案の定、中国産しいたけは報道の対象になった。ここで考えなければならないのは、国産のしいたけに比べて、なぜ中国産のしいたけが1/3といった価格で買えるのかということだ。国内の人件費、輸送費の高さだけでは説明できない部分もあるかもしれない。中国産のしいたけは、航空貨物か、船舶貨物で運ばれてくるのだ。そのコストは勘案されなければならない。国産に比べて、多くの業者を経て時間をかけて運ばれてくることも勘案しなければならない。それでも安いしいたけは、中国での生産コストが低いから、という理由だけではとても説明できないような気がする。そこまで考えて、なんだか怪しいかな、といったことを思うのが大事なのだろう。
売り手は、損をしてまで、身銭を切ってまで安く売ることは、「基本的に」ない。そのことを踏まえた上で、安い価格の理由を想像力を働かせてはるか前方まで推測することが、健全な消費社会のためには必要なのだろうか?
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