30年ほどの前のSF作品を引っ張り出してきて読む。ジェイムズ・P・ホーガンの「星を継ぐもの」(原題:Inherit the Stars)である。何度読んでも面白い。一言で言えば、「正真正銘のSFである。」ということになろうか。
何度も読んでいるので、結末はわかっているのだ。それにもかかわらず、何度も読んでしまうのはなぜだろうか。考えてみると、このお話のどこがいいといえば、謎解きのプロセスが最高に面白いということにある。サイエンスに興味のある人であれば、なおさらだ。物理、化学、生物、地学などの全分野を動員して、謎解きにかかるのだ。ひとつひとつのエピソードが着実に結末に向けて収束するのを見ているのは、すごく気持ちがいい。
このお話は、科学が進歩した未来の地球が舞台だ。あるとき、月面にて地球人と思われる宇宙服に身を包んだ遺体が発見される。「チャーリー」と名付けられたその遺体は、実は5万年前のものであることが明らかになる。そんな年代に月に宇宙服を着た地球人がいるわけはないということになり、世界は騒然となる。人類の起源にもつながる、この謎解きに挑むのが、原子物理学者のハント博士である。ハント博士はコーディネーターとして、それぞれの専門分野の学者と協調し、ときには戦いながら、徐々に結末に迫っていく。
遺体を分析して「チャーリー」=地球人説を強調する生物学者のダンチェッカー博士との攻防、「チャーリー」の所持品から言語を解読しようという言語班の苦労、月面での不可思議な状態を調査する研究者とのやりとりは、想像力だけで書けるのかと思うほどの臨場感である。極めつけは、遠い木星の衛星で異星人の遭難船を発見するエピソードだ。「チャーリー」と「異星人」のつながりが出てくるにつれて、事態は一気に前進する。ほとんどあり得ないという設定、だが非現実とはいえないその設定にも強いリアル感を感じるというのは、作者が科学の各方面に対して大きな興味と知識を備えているからに違いない。
謎解きが中心で、あまり人間関係には量を割いていないお話なのだが、当初対立していたハント博士とダンチェッカー博士の間に微妙な友情のようなものが芽生えたり、お話のスパイスとしてそれぞれの登場人物が絶妙な味を出しているのもいい。ただ、あくまでもお話のメインは謎解きのプロセスであり、科学技術に関するディスカッションや解説をしているあたりは、実に勢いがある。作者が楽しんで書いているんだろう、と思う。
最後のページを読んだとき、すごく晴れ晴れとした気持ちと、残念な気持ちが交錯したのは、私だけではないはずである。結末を迎えて、本のタイトルの意味がようやくわかるのだ。しかも、お話は、あと4冊分も続くのだ(うち1冊は日本語版がない)。それらも、改めて読んでいるのだが…。やはり面白い。ちなみに、ハント博士、タバコ吸い過ぎですよ!今だったらこんな設定は出てこないだろうなぁ。
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