滅多に出てこない鉄道ネタ。というか本である。鉄道の本にもいろいろあるが、「未完成路線」をテーマにしたあたりが実にマニアックである。著者はあの有名な川島令三氏である。主に首都圏と大阪近郊、新幹線をテーマに、資料や取材、現地調査などを踏まえて独自の「推理」を展開する。ちょっとした推理小説を読んでいるようで、現地がイメージできる場合には面白い。
私の利用している東急田園都市線で言うと、これは渋谷から東京メトロ半蔵門線に乗り入れて押上に達し、東武伊勢崎線に直通する。実はこの押上駅には東武線に向かう線路とは別の線路があり、実はそれは四つ木を経由して松戸まで伸びるらしい。ホンマかいな、と思わず関西弁が出てしまうのだが、松戸まで行けば常磐線や新京成線にも接続する。千葉方面から都心に出る選択肢が増えることになるので、画期的なことだ。とはいえ、これは著者の想像の域を出ない。だが、現実味はさておき、そのような可能性があり、それを想像するだけでも楽しいと思うのだ。
ところで、この手のネタを楽しむには、一種の空間把握能力が必要なようだ。グローバルに言えば、「地点Aから延伸し地点Bに達する」と言われたときに、頭の中に地図を描きそれを想像できること、また、「上りホームの先に分岐があり片側が下ってもう一方の線路をくぐり、反対側に伸びている」といった状況を想像できる必要がある。それができれば楽しめる。もちろん、地図や図解は多数示されているのだが、それを見なければ楽しめないというのでは、推理小説の種明かしを読みながら本編も読んでいるようなものである。まずは、頭の中で状況を組み立てつつ、読んでみたい。
読んだあとは、機会があれば現地に赴き、ホームの端から先を覗き、あるいは線路予定地を眺めながら、実際に路線が延伸されたり、複線が複々線になり、あるいは新路線が開通したときのことを想像したい。鉄の道を敷くというのは、単に道路が開通するのとは別な感慨があるものだ。
惜しむらくは、対象が首都圏と大阪周辺、新幹線に限られていることで、地方に住んでいる人には今ひとつピンと来ない話が多くなってしまうのではないかと言うことだ。かくいう私も大阪の話には興味がないし(というかわからない)、せいぜい新幹線の話に付いていくぐらいであった。仕方ない話とはいえ、各地方版を出すわけにもいかず、マスを掴むには今回の選択がもっとも妥当だろう。
この本をひととおり読んでみての感想は、意外にも「こんなに線路だらけにしてどうする!」なのであった。
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