怪人二十面相―江戸川乱歩

ややや、こんなものが出ていたとは知らなかった。江戸川乱歩の「少年探偵」シリーズの文庫版である。思えば小学生時代、この「少年探偵」シリーズにはまっていたのであった。小学校の図書館にはこのシリーズがずらっと並んでいたのだが、いつも貸し出し中であるなど、人気シリーズであり、目当ての巻を確保するのに苦労したよい思い出があるのだ。そういえば、本を借りるときには三角定規を大きくしたような木製あるいはプラスティック製の記名済みのダミーを、本のあった場所に差すようになっていたのであった。

怪人二十面相―少年探偵 (ポプラ文庫クラシック)

お話は、あまりにも有名だろうから省略。名探偵明智小五郎と、小林少年率いる少年探偵団、そして怪人二十面相と呼ばれる怪盗との捕り物を描いた少年少女向けの推理小説だ。小学生の脳みそには素晴らしく面白く、借りてきた本は一気に読まれてその晩には読み終わっていた(お休み用に借りてくるのだが、その日の晩には読み終わっているのだ)。怪しい導入部分から起きる怪盗事件、明智小五郎の登場、小林君の活躍、次々に解き明かされる謎、そして結末と、息つぐまもなく読みふけったのを覚えている。

大人の頭には、いささか単純な謎と、ちょっと無理があるんじゃないの?的なトリックとか、おいおい水を差すのをやめようよ、といったことでも書きたくなるのだが、それは野暮というものだろう。何しろ、「少年探偵」なのだ。当時の私たちには、少年探偵団の働きはすごく頼もしく思えたのであった。相手は、日本(東京?)を恐怖のどん底に突き落としている大犯罪人である。そいつに正面から向かい合い、暗くなっても探索を続け怪しい人物は尾行し、捕り物にも参加する肝の太さには、今でもビックリするほどだ。しかも行動半径がすごく広い。ご両親は心配されないのかしら、と却ってこちらが心配になるのだが、「少年探偵」ごっこが流行った理由がわかろうというものだ。

よく知られているのだが、怪人二十面相は血を見るのが嫌いで、物語中でも決して人が傷つけられたり、殺されたりはしないのだ。実はこういう設定は子供には安心して読める条件のひとつと思う。ポケットモンスターでは、決してモンスターは死なないし(戦闘不能になるだけ)、これがポケットモンスターを流行らせる要因のひとつになったと見ている。大人が見て危ういものは子供には与えたくないだろう。とはいえ、「少年探偵」シリーズでも怪人二十面相が登場しないお話があり(「大暗室」「緑衣の鬼」など)、その場合には平気で人が殺されてしまい、子供心にショックを受けたものだ。

ところで、改めて読み直してみると、怪人二十面相というのは意外と品がない感じだ。もう少し上品な盗賊という記憶だったのだが、言葉遣いがなっていない。身なりの方は、上品な青年紳士という描写だが(そもそも変装が得意なので、こういった表現も意味がないが)、言葉の方は「てめえ」「ずらかれ」といった感じでべらんめぇ調なのだ。また、小林少年はリンゴのようなほっぺの美少年という設定で、仏像に化けたり、住み込みの女の子に化けたりと多芸なのだが、どうも設定的には怪しいような気がする(いろんな意味で)。講談社アフタヌーン連載「ぷ~ねこ」にはこのあたりを実証するパロディが存在する。

今回は、「怪人二十面相」「少年探偵団」「妖怪博士」「大金塊」「青銅の魔人」「サーカスの怪人」が復刻された。読んだのは最初の二冊。残りも読んでみるか、どうしようか。個人的には、「鉄塔王国の恐怖」を希望する。なぜなら、最初に読んだのがこれだったからだ。

コメント

  1. 野の花 より:

    もうちょっとでこの日記を読みそこねるところでした(笑)。今、なおさんのこの日記を読みながら、本当になつかしく自分の少女時代を思い出すことが出来ました。
    私と江戸川乱歩の出会いは、小学校の低学年の頃です。父が強制的に私に読み聞かせをするのです。しかも、かなしい事に、その本たるやエドガー・アラン・ポーやら江戸川乱歩、そして中国の「偉大なる王(ワン)」などという虎の物語(多分知る人は少ないと思われます)。まるで父の趣味に付き合わされている感じ・・・私はその時間が苦痛なほどでした(笑)。
    でも、エライもので、成長するに従って、その読み聞かされた本をもう一度自分で読んでみようと思うようになりました。江戸川乱歩を自分で初めて呼んだのは小5の時。なおさんの紹介された本より、一昔も前の、もっと古めかしい本で読んだと思います。でも、面白くてはまりました。その頃から読書の記録をつけています。それを見ると10冊は読んでいます。
    またその頃NHKで「明智探偵事務所」という確か月曜夜8時からのドラマを欠かさず見ました。明智役の夏木陽介さん、小学生のくせに大ファンになりました。二十面相は米倉さかかね(字が思い出せない)さん。なおさんはまだ小さくてご存じないでしょうか?ドラマの二十面相はちょっと品があったように感じます。
    江戸川乱歩からコナン・ドイルへ、そしてアガサ・クリスティ、エドガー・アラン・ポー(これも父の読み聞かせの影響です)、エラリー・クイーン、そして横溝正史へと私の推理小説遍歴は続いて行きました。江戸川乱歩。今読んだらどんな感じなのでしょう。また読んでみたくなりました。

  2. なおさん より:

    野の花さん、
    野の花さんも、この世代のようですね。江戸川乱歩の、少年少女向けでないものは、けっこうえぐいものが多いのですが、大丈夫でしたか?笑
    私も思い起こせば、父親が買ってきて読ませた横溝正史の小説もきっかけのひとつになっていると思います。どんなタイトルかも覚えていないのですが、ドアの鍵穴?から覗くとバスタブの中で人が溶けていたり、東京の地図の上に北斗七星を置いた星の位置の都市がどうだったりと、江戸川乱歩の少年探偵シリーズよりは話の奥が深かったような記憶があります。
    子供に本を読ませるきっかけって大事ですね。私の場合は、居間に小さなブックスタンドを置き、そこに買ってきた本を並べておくことにしています。興味を持った本は、手にとって読んでいるようです。今は読めない、興味ない、となっても将来に何らかの形で影響が出ればいいかな、と。
    ちなみに日記は、書きかけで放置したものとかが、古い日付でいきなり現れることがあります。ご注意を、って自分で日付を直すとか気を付ければいいのですが。