10月10日、日経朝刊のアートレビュー面は版下の時代。この記事、すごく面白かったです。私のようなロートル編集者で版下を知っている者から見れば、そうそう、版下ならではの作り方というか、味があるんだよなぁ、という話になるのです。
最近の若いデザイナーさんや編集者は、デジタル化されてから入ってきた人も多いので、残念ながらこの版下を知らないことが多いんです。ちょっともったいないなぁ、という気がしますね!
版下(はんした)とは、印刷に使うハンコ(原板)のおおもとになるものですね。版下をカメラで撮影し、それをハンコに落とし込みます。こう書くと簡単なようですが、カラー印刷を想定した版下の場合、そのまま撮影してハンコに、なんてことはできません。一般的なカラー印刷では、CMYK(シアン、マジェンタ、イエロー、ブラック)の4原色で減色印刷しますから、ハンコも4枚必要になるんです。
デジタルの場合、画面上で仕上がり(完成形)を想像しながら線を引き、文字を置き、色をつけて、などと行いますが、版下は基本的にモノクロの世界。文字や罫線は台紙に直接置くか書き込み、写真やイラストは「別」になります。写真はポジフィルムで、イラストはカラー原稿で、それを4色に分解ということになっていました。
色の指定は台紙にトレーシングペーパーを被せて、赤ペンで行います。範囲を書き込み、C90,Y10とか。表現したい色に合わせてCMYKの量をパーセントで指定するのです。パーセントに応じて、4枚のハンコに応分の濃さの有効面ができるのです。
このほか、「自然な色合いで」とか「クッキリと!」みたいなアナログな表現を書き入れたり…。実際の発色は、版下をハンコにする際の製版段階で決まりますから、製版の職人さんの腕が利いてくるわけです。色校正に、本当の意味があったわけです。
版下は紙で、しかも文字は写植で打ったものを貼り付けてある状態。ですから、直すのも一苦労です。最悪、全部打ち直して貼り直したり。小さな修正なら、カッターで切ってずらして貼り込んだり。文字どおり、切貼を行っていたのです。カット・アンド・ペーストですね。溶剤とペーパーセメント、ピンセットは必需品でした。
修正が困難だからこそ生まれる、緊張感。デザイナーも、編集者も、写植オペレータも、製版の人も、真剣です。今は、簡単に直せるから、ちょちょいと作って気にくわなかったらやり直して、だらだらと細かな修正を繰り返して…。それは便利なものですが、緊張感という点では何段階もダウンしたように見えますね。
版ズレという言葉が懐かしい時代。もちろん、今でも版ズレはありますが、技術で可能な限り押さえ込まれています。版下の時代は、製版段階でずれることもしばしば。書籍のカバーの版下を恭しく受け取っていた時代、そういったものをこの記事で思い出すことができました。
便利さと引き替えに失うものは、意外に多いようですね。
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