電子書籍は実に面倒!?

こんばんは、築地で働く編集者ことなおさんです。あの有名な「ちきりん」さんが、出版社にとっての電子書籍の面倒さを取り上げていました。

実は面倒な電子書籍 – Chikirinの日記

なるほど、こう書いてくれたかと妙に感動したのですが、それに触発されたわけではないのですが、ブログ主も出版社に務める人間としての内部視点で、書ける範囲で書いてみようかな、と思います。

電子書籍、紙の本の問題点を解決してくれる!と思いがちなのですが、実は、新たな問題も生み出すのですね。

読者にとって、電子書籍は紙代も印刷代も流通コストもかからないのに、紙の本と同じか少し安いくらいの価格はぼったくり!と思われると思います。また、著者さんも、紙の本と同じくらいの印税率なのはおかしい、とおっしゃる方もいます。しかし、コストがかかっていないかというと、上記の記事に書かれていたとおり、紙の本とは違ったコストがかかるのです。

電子書籍の2形態

電子書籍には、主に2つの形態があります。ひとつめは「フィックス型」。紙の本のイメージそのままを再現したものです。レイアウトが複雑なコンピュータ書などは、もれなくこの「フィックス型」になります。「フィックス型」の弱点は、要は画像なので、文字の検索などができない、拡大すると文字などがボケる、データが重い、などです。

もうひとつは、「リフロー型」。電子書籍端末の画面サイズや表示倍率などで、スクロールなどが必要ないようにレイアウトを自動で最適化させるものです。文庫や新書、ビジネス書などは、この「リフロー型」が多いです。Kindle Paperwhiteで読める電子書籍は、ほぼこの形態です。「リフロー型」の弱点は、複雑なレイアウトに対応できないことですが、その代わり文字の検索ができたり、拡大してもボケない(端末による)、データが軽い、などのメリットがあります。

形態とコストの関係は、「フィックス型」は割と少ない手間で作ることができるの対し、「リフロー型」はほぼレイアウト作業をやり直す(電子書籍のために作り直す)作業が必要なことにあります。つまり、いったん紙の形にしたけど、リフロー型の場合はそこがまたスタートとなり、作業のためのコストがかかるというわけです。紙版と電子版を同時発刊するとなると、レイアウト作業も並行で行い、お互いに校正の内容を反映しなければなりません。ただ、紙版は印刷、製本の時間があるので、その時間で追いつくというのも不可能ではありません。

あえて私見を言えば、「フィックス型」の場合は、コストが低い、性能・品質が比較的低いということで、「リフロー型」より販売価格を下げる、著者への支払い条件を上げる、などがあってもよいと思います。ただし、著者にとっては、価格が下がれば1冊あたりの報酬も減りますが、支払い条件が上がることでトントンとなって、結局同じかも知れませんね。

変動する販売価格

紙の書籍は再販制度の対象になっていて、定価以外での販売を許可されていません(大学生協などを除く)。しかし、電子書籍は書籍といいながら再販制度の対象外なので、小売(電子書店)は自由な価格で販売することができます。もちろん、出版社と価格についての取り決めはありますが。

通常は、あらかじめ取り決めた価格で販売されますが、たまにキャンペーンやセールで割引や半額などのサービス価格で販売されることがあります。このとき、出版社には販売価格に基づいた金額で売上が報告されますから、時期によって販売単価がまちまち、ということになるわけです。

これは著者さんへの支払いにも影響します。キャンペーンをやったから支払いも下げますからね、では著者さんが怒ってしまうかも知れません。なので、事前にキャンペーン参加の許諾をとったりします。しかし、この許諾確認作業も骨が折れるものです。すべての著者さんがレスポンス良いとは限りません。返答を待っているうちにキャンペーン参加期限が来てしまったりします。

これをクリアするのに、最近は、実際の販売価格にかかわらず著者さんへの支払いは一定に、という方法になっているようです。これだと、割引の際にはどこかで割引分を吸収しなければなりませんが、面倒な手間が省ける、キャンペーンによって売上冊数が伸びるなどの効果も勘案して、出版社が被るケースもあるようです。

契約も面倒

また、出版には契約が伴いますが、多くの場合、紙版の契約と電子版の契約は別になっています。絶版という概念がある紙版に対して、絶版という概念がない電子版、著作権法上の複製に対する考え方も違う、もちろん、報酬についての考え方も違うということで、別々にせざるを得ないというのが現状です。最近は、紙版と電子版の包括契約を行い、1回で契約を済ませるところも増えてきたようですが、契約の内容は煩雑になりますね。

1冊の本について契約を2度交わし、両方を管理していくというのも、面倒なものです。この作業を事務方が行うにしろ、編集側が行うにしろ、どこかで面倒とコストがかかります。著者にとっても、契約が2段階になるのは煩わしく、できれば一本化していくのが流れでしょう。

ということで、触発されて、内部事情的なことを書いてみました。電子版、なんでサクッと出ないの?何で安くないの?何で印税増えないの?と思っていらっしゃる読者の方、著者の方の参考になれば幸いです。

 

 

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