出校確認今むかし

お久しぶりでございます。コロナ禍も第二波かという状況ですが、皆様恙なくお過ごしでしょうか?

この週末は、1,000ページ越えの本の校正にケリを付けるべく頑張っておりました。

当然、在宅でです。

校正をしながら(半分うんざりしながら。笑)昔のことなど思い出していましたが、本文の校正の方法もだいぶ変わったものです。

あ、ここでいう校正は、印刷に入る一歩手前、すなわち印刷所から出てくる出校物の確認です。

ちょっと書いてみますね。


出版の世界に入ってかれこれ37年超になりますが、最初のころは今から思えばひどいもんでした。

さすがに活版印刷の時代ではなく、すでに電算写植の時代になっておりましたが、それでもひどいものです。

電算写植で棒打ちした印画紙を、大きな台紙に貼り付けていきます。その台紙を直接見る。あるいは、台紙を撮影し、フィルムになったものを青写真にして(これが青焼き)見る、そんな感じです。

見るだけならいいんですが、何か間違いがあったら、修正します。この修正は台紙の上で行います。ちょっとした文字の間違いなら、カッターナイフ、ピンセット、ペーパーセメント、などなど、道具と職人技を駆使して、修正します。修正が規模の大きなものなら、あたり一帯を棒打ちし直して貼り直してしまいます。

なので、何度も修正が入ると、「もう許して下さい!」と写植屋さんが泣きついてくるわけですね。それでも容赦ない修正を入れるのが当時は一流の編集者かと思っていました(今は逆の見方ですが)。

切って捨てたはずのものが台紙のどこかに貼り付いていたり、せっかく貼ったのにのり付けが甘くて落ちてしまったりと、この時代ならではのトラブルも日常茶飯でした。

いわゆる「出張校正」というのは、修正現場(印刷所や写植屋さん)に出向いて行うもので、大手の印刷所にはお得意様専用の作業部屋などもあったものです。仕出し弁当とともに、うらやましいものでした。


そのうち、電算写植も進化して、台紙に貼る作業を専用のコンピュータ上でバーチャルに行うことができるようになってきました。貼る作業(レイアウトですね)も修正もコンピュータ上で行えますから、職人技も道具も不要になり、それはそれで寂しいもんですが作業効率はグッとアップしました。

ちょうど、MacのDTPが台頭してきて、当時ならPageMakerとかいうソフトウェアで画像の割り付けまでできるようになったので、上の台紙に貼り付けていたような時代ではトレペを使って写真の指示をしたり色の指定をしていたのが、コンピュータ上で完結できるようになりました。

データは出力センターというところに持ち込んで、そこでフィルムにしてもらい、そのフィルムを直接見るか、青焼きにもしてもらって見るという感じでした。

ところで、フィルムにまでなってしまったものを修正するにはどうするのでしょう?これには、データを修正してフィルムを出し直す(ムダですねぇ)、あるいはフィルムを切貼して修正する、そのふたつがありました。

特にフィルムの切貼(ストリップ修正と言ったかな?)は、台紙上での修正と同様に切った貼ったの世界になりまして、やはり職人技の見せ所となったのです。まぁ時間の制約もありますから、大きな修正などはフィルムを出し直して済ませていましたね。


ところで、フィルムや青焼きでの校正は、多色刷りの場合ではどうしていたのでしょう?商業印刷では、色の数だけフィルムが必要になるので、2色刷なら2枚、4色プロセス(いわゆるフルカラー)なら4枚のフィルムが必要になります。

信じられないことに、色別のフィルムを見て、それを頭の中で合成し、校正していました。もしくは、4枚重ねて校正するとか。しかも、光源に向けてかざすとか、ライトボックスの上で見るとか。何でもアリの時代だったと思います。

そのうち、フィルムというものが出版社から離れて、印刷所持ちということになると、フィルムを直接見るという機会はなくなりました。印刷会社も、フィルムを何度も出し直したり切貼するのもイヤなので、その一歩手前の段階で校正させたれ!ということでコンセなるものが出回り始めました。

コンセとはコンセンサスの略です。コンセンサスというのは合意という意味ですが、印刷所と出版社、これでもって校了紙とするのに合意しましょうね、みたいな意味だったと思います。何のことはなく、レーザー式のカラープリンタ出力なのですが、多色ものでは非常にありがたかったです。一応、印刷と同様の状態をシミュレーションし、オーバープリントなども再現でき、校了紙としての役割は果たせそうなものでした。


長らく、コンピュータでデータを作り、それをフィルムにして青焼きとか白焼きで確認する、あるいはその手前でコンセで確認するという時代が続いていましたが、フィルムを介さずに直接刷版にする、ダイレクト刷版(CTP)というものが台頭してきました。刷版というのはいわばハンコのことで、これにインクを乗せて紙に印刷するのです。CTPになるまでは、フィルムを刷版に焼き付けるという作業が必要でしたが、この手順がそっくり不要になりコストダウンとスピードアップが可能になりました。

CTP時代ではどのように校正するかというと、刷版に焼き付けるイメージを、巨大なインクジェットプリンタのようなもので印刷し、それを折りたたんで本の形にして見るということになります。インクジェットプリンタなので薄らボケていたり、色の再現がまったくなっていなかったりなど問題はありましたが、徐々に進歩していってだんだんとキレイなものを校正できるようになってきました。

さて、ここで現在の話です。CTPであるのは変わらないんですが、在宅ではプリントしたものを見ることができないので、プリントする前のイメージで校正しています。このイメージ、印刷を前提としているものなので、非常に高精細です。ましてや1,000ページになると、スクロールする都度にレインボーカーソル(Macの砂時計のようなもの)が頻繁に出て、すごくストレスです。しかも、文字情報はないので検索もできません。なので、入稿用のPDF(こっちはテキスト情報が残っている)と並べて校正するという、さらに負荷の大きな状況となりました。

まぁそれでも何とかやり遂げて、今に至っています。そういえば、見本ができてくるころです。どのような仕上がりになっているのか、楽しみです。


読んでいただきありがとうございます。

細かく書くとキリがないテーマなので、ざっくりとした書き方になってしまいました。プロの諸兄から見たら不正確な記述もあるかと思います。

そのへんは勘弁していただき、ふだん出版や印刷に馴染みのない方々に雰囲気でもつかんでいただければいいな、と思います。

コメント

  1. ふうちゃん組 より:

    こんにちは。
    校正、無事終了されたのでしょうね。
    お疲れさまでした。
    本を作る、というのは大変な仕事だなと思います。
    1000ページって、すごいですね。
    最近は出版不況という話ですが、
    紙の本はデジタルとは違う魅力がありますし、
    個人的には物体がないと、不安です。
    増える本をどうにかしなければと思いつつ、
    出版を支える方にはがんばっていただきたいと思います。

    • なおさん なおさん より:

      ふうちゃん組さま、ありがとうございます。

      校正は無事終了、本もできてきました。
      私の作る本はITに関したものが多いので、たいてい厚いです。
      できるだけ増えないようにするのですが、どうしても厚くなってしまいます。
      今回も、100ページくらい削りました。

      本も昔のように売れなくなってきているので、著者もたいへんです。
      しかも、寿命も短くなってきていますし。
      最近は、電子書籍をまず出して、好評なら紙の本にするという流れもあるそうです。
      そのうち、紙の本が欲しい人はオンデマンドで1冊ずつ販売、となるかもしれません。
      というか、一部の本はすでにそうなっています。

      誰でも本を書く気があれば電子書籍で出せますし、好評なら出版社からオファーも来る。
      新しい出版の時代はすでに始まっています。