いったいどういう論理なのか?

ちょっと古い話になるが、聞いたところによると、13日に、ピア・ツー・ピア(P2P; Peer to peer)のファイル交換ソフトウェアWinny(ウィニー)開発者である金子勇氏に有罪判決が出たそうだ。そうか有罪か、150万円の罰金か、と思いながら、果たしてこれでよいのか、ということについて思うことを書いてみたい。

事の発端は、金子氏の開発したファイル交換ソフトウェアWinnyが、結局のところ違法なファイル交換に使われていたことにある。また、Winnyをターゲットにしたウィルスに感染した人が、その人のPCにある重要なファイルを流出させてしまったことにある。

ファイル交換という行為自体はまったく違法でも何でもないが、そのファイルが楽曲のファイルだったり、動画のファイルだったり、市販ソフトウェアだったり、要するに著作権等の保護対象にあるものが交換されていたことが問題なのは間違いない。それに加えて、個人情報や機密情報が流出してしまい、第三者の目に触れることになってしまったのが問題なのも間違いない。

そういう行為はもちろん違法だし、結果として社会に甚大な影響を与えてしまったのはけしからんから、そういうツールを開発した者も、それを幇助したとして有罪にしてしまえ、というのがそもそもの逮捕、立件の根拠だ。

最初は、金子氏は純粋な技術的興味から優れたファイル交換ソフトウェアを開発しようと思い立ったのだろう。だが、作者の想定した使われ方と、実際の使われ方が異なるというのはよくあることである。言ってしまえばインターネットだって、最初に設計した時点では現在のような使われ方は想定していなかっただろう。研究目的、軍事目的で開発されたインターネットが、商用利用に解禁されたとたん、またたくまに一般市民の生活に入り込み、インフラの整備と相まって、今では社会に欠かせないインフラになっている。インターネットのない生活は考えられないが、それは実はIP(Internet Protocol)というシンプルなプロトコル(通信手順)によって基礎が構築されている。IPを設計した開発者も、現在のような状況は想定していなかっただろう。だが、間違いなくインターネットは犯罪行為にも使われているのが現実だし、それを否定する人はいないだろうし、だからといってIPの設計者を非難しようとは誰も思わないはずだ。

個人的には、IPやTCP、HTTPといったインターネット上の主要なプロトコルの存在から得られるメリットより、ネガティブな用法から生ずるデメリットの方が遙かに小さいため、誰もそんなことを言い出さないのだと思っている。残念ながらWinnyは、実際の用途の多くが違法なファイル交換であり、重要データの外部流出のもとになったソフトウェア、というイメージが強かったような気がする。違法でないファイルの交換ニーズは、実はそれほど高く評価されておらず、またWinnyがファイルを流出させてしまうという誤ったイメージがあるような気がするのだ。メリットというか世の中に与える善い影響よりは、悪い影響の方が勝っていたのではないか、という印象は持っている。

言うまでもないが、悪いのは違法なファイルを流通させた人間だし、ウィルスに感染してファイルをばらまいてしまった人間なのである。飲酒運転と同じ理屈で、自動車が悪いのでも酒が悪いのでもなく、酒を飲んで運転した人間が悪いのである。自動車は便利なもので社会に欠かせないものだから、飲酒運転が問題になっても誰も自動車をなくそうとは言い出さないし、自動車の設計者や自動車会社を訴えようと人は現れない。酒も市民の生活に欠かせないものだから、飲酒運転が問題になっても酒をなくそうとは誰も言い出さないし、酒造会社を訴えようという人は現れない。問題にされるのは、あくまでも飲酒運転、なのである。

私は、著作権侵害の側面よりは、大手企業や特に官公庁で、職員のノートPCなどから重要なデータが流出してしまった、このことに問題があるのではないかと思っている。普通に考えれば明らかな失態だし、そういうデータが個人のPCに存在し、しかも場合によっては自宅にまで持ち帰られていたこと、ウィルス対策が完全に行われていなかったことなど、突っ込むところはたくさんある。だが、Winnyという存在を持ち出し、それを悪者にすることで、事態の重大さをある程度うやむやにできるのではないかと考えたのではないかと、勘ぐりたくもなる。

あと、これは技術やそういったものからまったくの関係のない話で、功を焦った京都府警、何とでも有罪にしないとメンツが立たないと言った思考構造から、強引に有罪に持っていったという感じもする。その結果、懲役刑ではなく、罰金刑になっている。とにかく、有罪になった、だから逮捕や立件は間違ってはいなかった、という根拠を固めるために、今回の判決はあるような気がする。

最後になるが、普通の人にはWinnyは手に余る存在なのであるとも思う。まさか自分のPC上のファイルが、Winnyによって外部にばらまかれてしまうとは夢にも思わないだろう。もちろん、普通に活用していれば、見せたくないものが外に出て行くことは機能上有り得ない。だが、ウィルス感染という非常事態下では、この前提が崩れてしまうのだ。PCをよく使うパワーユーザは、このへんのリスクを心得ているから、PCのガードをこれでもかというほどに高める。ファイアウォール、ウィルススキャン、ウィルスDBアップデート、OSのアップデート、アプリケーションのアップデートなどを、神経質なほどに行う。これでも漏れてしまう可能性があるから、重要なファイルをデスクトップ以下から外したりする。ここまでやるのだ。

Winnyという便利な道具を手に入れて好き放題やっていたが、自分に落ち度のある事故でひどい目に遭い、今度はとんでもない道具だと八つ当たりしている、ととれないこともない…。

コメント

  1. 匿名 より:

    判決内容を、あなたは全文読みもせずにコメントしているようですね。

  2. なおさん より:

    どなたかわかりませんが、コメントありがとうございます。
    よろしければ、判決文を全文読んだ上で導かれる考え方と、私の考え方のずれをご教示下さい。