妖怪・妖精譚(小泉八雲コレクション)―ラフカディオ・ハーン

小泉八雲こと、ラフカディオ・ハーンの作品集。53編も収録されたお話は、すべて再話作品である。再話というのは、オリジナルのある話を、作者独自の世界観や文章で書き表したもの。ラフカディオ・ハーンは再話文学者であり、人間とあやかし(幽霊、妖怪、妖精など)とのかかわりに強い興味を持った幻想作家でもあった。雪女などお馴染みのお話や、中国を舞台にしたもの悲しいお話など、上手な翻訳で十分に楽しめる作品集になっている。

妖怪・妖精譚 小泉八雲コレクション (ちくま文庫)ちくま文庫。

ラフカディオ・ハーンは、ギリシア生まれのイギリス人である。日本に渡り、東京帝大の講師を務める際に帰化、小泉八雲と名乗る。小泉は来日後に結婚した妻の姓であり、八雲は来日時に住んだ島根県松江市の近く、出雲の枕詞「八雲立つ」にちなむと言われる。などと、ここまではWikipedia風に引っ張ってみた。ちょっと年代の行った人なら、ラフカディオ・ハーンよりは小泉八雲の方がピンと来るはずである。

ちょっと分厚く、1,000円以上もする文庫分には、すでに書いたが53の短編が収録されている。大きく分けて中国、日本のお話が収録されている。幽霊、精霊、妖怪、といったあやかしと男の情愛を描いた作品が多い。つまり、幽霊、精霊、妖怪は女性ということで(女性という性があるのが不思議)、男性があやかし側に回った話は少数である。妖怪、幽霊との話というとおどろおどろしたものを感じてしまうが、実際の作品は何かもの悲しさを感じる。実に純粋で、素直な男女の心がひしと伝わってくる。それに加えて、人の心の怖さというものも。

若いときに契りを交わした男女が不意に離ればなれになり、女の方は失意のもとに病んで亡くなってしまう。それでも、戻ってきた男のもとに現れて、一時は至福の時を過ごすのだが、やがて女は消える時が来る、牡丹灯籠、雪女、などお馴染みの話も多い。

男女の情愛に限らず、耳成法一、浦島太郎、ろくろ首など、お馴染みのお話もある(実はここでは、浦島太郎とは男女の情愛の話になる)。昔話で聞けば単純な話も、ラフカディオ・ハーンの手にかかれば別のお話に生まれ変わる。

翻訳がよい本である。ところどころに入っている挿し絵には英語の物語が入っているが、これを日本語訳したら、実に自然な昔話の口調になった。知らなければ、日本人の誰かが書いたお話と思っても差し支えまい。原文と読み比べればわかるが、意訳の余地は大きくないような気がする。

さて、現代のコミック作品などのネタ本にもなっているのはさておき、何か素朴なお話を読みたいと思ったら、お勧めのような気がする。ただ、幽霊とかそういうのが苦手な人には難しいかも知れないが、怖さはほんのちょっぴりだから、どうだろう?

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