プリズンホテル(冬)―浅田次郎

浅田次郎「プリズンホテル」も後半に入った。季節を表してか、「夏」の爽快感、「秋」の静寂感に続き、「冬」は厳烈感がテーマになっているのか?一瞬、別の本を読んでいるかと思うかのような描写が多い。その分、引き込まれることも多いわけだが。

救急医療現場で闘う看護師、末期医療の末に患者を殺した医者、登山家の英雄、自殺願望の少年、編集者というよりは熱烈なファンの女性…。相変わらず設定はすさまじいが、今回はいつもの面々が少々控えめに、そして重要な役割をこなしていた感じもする。圧巻は、偏屈な小説家が愛人を殺しかける最終章だろう。なぜ殺してしまうのか、自分でもわからないままに行動してしまうわけだが、これ以上は書くまい。

今回のテーマは、生と死だろうか。運び込まれた急患の命をつなぐ看護師、苦しみから救うために患者を殺す医師。死と隣り合わせで指を何本も、友を何人も失いながらも、それでも山に登る登山家、いじめにあい自殺を指向する少年。

例によってのおちゃらけも息抜きに用意されてはいる。小説家のファンの女性が吐血して失血性ショックを防ぐための輸血に必要な血液型が誰もいない。そう、全員が輸血できない同じ血液型で統一されていたのだ。

しかしここまで読むとこの主人公は、少し私に似ているのかな、と思う。生い立ちが似ているとかそういうことは別にして、偏屈さ、不器用さ、繊細さ(え~?うるせ!)、はうり二つだ。悪ふざけの度合い、暴言の吐き具合もポイントだ。なんだか感情移入してしまいそうだが、果たして春はどうなるのだろうか?

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